大河「光る君へ」大石静さん 平安の息づかいを自身のアイデアを交え
吉高由里子さん演じる紫式部と、柄本佑さんによる藤原道長の関係を軸にしたNHK大河ドラマ「光る君へ」が折り返しを迎える。本作はオリジナルと思われるエピソードが多いことが話題だ。どのように創作しているのか、脚本家の大石静さんに聞いた。 【写真】「源氏物語は男性中心社会への批判だ」と語る大石静さん。紫式部と清少納言の今後は… 歴史、風俗、言葉、芸能、和歌と漢詩……。一流の考証の先生がついている中で、どんな展開が可能かを頭のなかで巡らせ、書き続けています。例えば、ききょう(清少納言)が「枕草子」を書き始めたのは、まひろ(紫式部)の提案によるものという設定。2人は「元々知り合いではなかった」とも言われますが、資料はなく、史実は不明です。ただ、ともに同時期に狭い京の都で暮らしていたし、父は学者という共通点もある。6話で初めて会いますが、実際にも交流はあったかもしれない。時代考証の倉本一宏先生からも「その設定で、やってもよい」と言われました。 一方、先生方に「あり得ない」と指摘された部分は、一切書いていません。アイデアを提案しても、「史実として時期が違うのが、明確なのでダメです」や「この面談は御簾(みす)を隔てないと」などとNGを出されることもたくさん。考証会議を何度も重ね、厳しくチェックされて、台本は決定稿になります。 まひろの母が、藤原道兼に殺されるという初回も話題になりました。私は最初にインパクトがほしかった。紫式部は早くに母を亡くしているようなので、道兼に殺されたという設定を思いつきました。作品はご存じの通り紫式部がヒロインで、男性の主役は道兼の弟の道長です。でも、式部は下級貴族で、道長は上級貴族のなかでもアッパーな人で接点がない。早い段階で2人を結びつけないと、話がかみ合わないと思ったのです。 だから、幼少期に知り合い、淡い恋心を抱くようにした。加えて2人の宿命が絡み合うように、「愛した人は、母のかたきの弟だった」というエピソードで補強しました。繰り返しますが、時代考証の先生のチェックを経たうえでです。まひろと三郎(後の道長)の家は離れておらず、「幼少時代に知り合っていたこともあり得ない話ではない」と、お墨付きをいただいた。 傲慢(ごうまん)な独裁者といわれている道長を人間的に優れた存在として描いたのは、倉本先生から「通説とは異なる非常に優れた政治家だったと思う」とお聞きしたのがきっかけ。天皇の祖父として権勢を誇るが、人事は意外とリベラルだったと。「その方向は面白い」と思いました。 まひろとの間にも、まだまだ色々なことが起こりますので、お楽しみに。(聞き手 編集委員・後藤洋平)
朝日新聞社