九州新幹線部分開業20年、観光客増加 新八代―鹿児島中央間、在来線は苦境
九州初の整備新幹線として開業した九州新幹線は3月13日、新八代(熊本)―鹿児島中央間の運転開始から20年を迎えた。乗客数は在来線時代に比べ急増し、観光需要を中心に経済波及効果が膨らむ一方、並行在来線の苦境は深まるばかりだ。(共同通信=相沢一朗) 「開業前は福岡、鹿児島県の移動(手段)シェアは飛行機が圧倒していたが、安定輸送と早さでJR利用は3倍以上になった」。開業準備室長を務め、開業後は新幹線鉄道事業部長として運用を統括したJR九州の古宮洋二(ふるみや・ようじ)社長は胸を張る。 2004年の部分開業に伴い、特急で3時間40分だった博多―西鹿児島(現鹿児島中央)の所要時間は最短2時間12分に。11年3月の全線開業で同1時間16分となった。鹿児島空港(霧島市)は鹿児島市中心部と離れ、全線開業後は関西方面や福岡からのアクセスが新幹線に集中した。 古宮氏は「鹿児島県民の生活を変えた」とも指摘。県北部の出水市から鹿児島市までは新幹線により、在来線の1時間10分から約25分に短縮、通勤通学の利用が増えた。
九州経済研究所(鹿児島市)の福留一郎(ふくどめ・いちろう)経済調査部長は「九州新幹線の利用者は福岡、熊本両県ではビジネス目的が多いのに対し、鹿児島県は観光の傾向が強い」とみる。鹿児島県内の宿泊者数は新型コロナウイルス禍を除いて増勢が続いた。 鹿児島市では大型ホテルや商業施設の開発が進み「課題だった県外資本を取り込むハードルが低くなった」(福留氏)。 半面、並行在来線である鹿児島線八代(熊本県八代市)―川内(鹿児島県薩摩川内市)間の116.9キロを受け継いだ第三セクター、肥薩おれんじ鉄道は厳しい。2022年度までに利用者は半減したが、営業費用は2.6倍に増加。経常黒字は一度も確保できず、両県の基金や補助金を切り崩す経営が常態化している。 鹿児島県の全43市町村会などでつくる振興協会は2023年12月、2027年度までの5年間で最大7億円超の財政支援を決めた。原資は宝くじの収益を積み立てた災害対策や街づくりを目的とした基金だ。理事長の本坊輝男(ほんぼう・てるお)南さつま市長は「(これ以上)支援しないと県にお願いした」と語る。
“もう一つの並行在来線”も依然中ぶらりんの状況だ。熊本、宮崎、鹿児島の3県の山間部を縦断するJR肥薩線は2020年7月の豪雨で橋桁が流失するなど一部区間86.8キロで運休している。 定期券利用が少なく、風光明媚(めいび)な景色を生かし観光列車でてこ入れしてきたが、2024年3月23日にかつて同線を走った「SL人吉」が引退。JR九州は4月3日、熊本県の八代―人吉間の鉄路復旧方針で熊本県、国と基本合意したが、再開は早くても2033年度。人吉―吉松(鹿児島県)間に関しては、JR九州は3県と別途話し合う考えだ。