ウディ・アレン節?それとも老人の愚痴?スキャンダル以降の現在地『サン、セバスチャンへようこそ』
いつまで経っても男は本能に従う生き物
描き方としては、ある程度の配慮があるように感じられるものの、若い妻をもつ男が、妻の不倫を心配しているが、妻の心を留めさせるだけの材料がもはや自分のなかには無いと感じている。そんな老人の奮闘をコミカルに描きながらも、自身も新しい恋の可能性にシフトしていこうとする身勝手さ。いつまで経っても男は本能に従う生き物で、常に自分が中心に世界が回っているかのような錯覚をしているウディの作家性が強く反映された作品といえるだろう。 そのなかで『市民ケーン』『81/2』『突然炎のごとく』『男と女』『勝手にしやがれ』『仮面/ペルソナ』『野いちご』『皆殺しの天使』『第七の封印』といった名作、ヨーロッパ映画へのオマージュも含まれているが、熱量としては不足しているように感じられる。というより世界が自分中心という視点を助長するのに使われているようにも思えてしまうのだから、一度付いたイメージが作品全体の視点を変えさせてしまう恐ろしさすら感じてしまった。 ちなみに去年公開された新作『Coup de chance』もフランスが舞台となっていることからも、アメリカを舞台とした恋愛映画はしばらく撮ることが難しいのだろう。しかし、ウディの作品を観ていると、こちらも独自の視点から恋愛映画を撮り続けるスタンスであることは伝わってくる。 たとえ時代にそぐわないとしても、それがウディの信念で作家性だと思う側面があるのも確か。ウディ作品のファンはそれを求めているが、時代がそれを求めていない。そんな絶妙で極端な位置にある作家性のウディが、今後どのような作品を撮っていくかは、気になるところではあるが……。 【ストーリー】 かつて大学で映画を教えていたモート・リフキンは、今は人生初の小説の執筆に取り組んでいる熟年のニューヨーカー。そんな彼が映画業界のプレス・エージェントである妻スーに同行し、スペインのサン・セバスチャン映画祭に参加する。ところがスーとフランス人の著名監督フィリップの浮気を疑うモートはストレスに苛まれ、現地の診療所に赴くはめに。そこでモートは人柄も容姿も魅力的な医師ジョーとめぐり合い、浮気癖のある芸術家の夫との結婚生活に悩む彼女への恋心を抱く。サン・セバスチャンを訪れて以来、なぜか昼も夜も摩訶不思議なモノクロームの夢を垣間見るようになったモートは、いつしか自らの“人生の意味”を探し求め、映画と現実の狭間を迷走していくのだった......。 【クレジット】 脚本・監督:ウディ・アレン 出演:ウォーレス・ショーン、ジーナ・ガーション、ルイ・ガレル エレナ・アナヤ、セルジ・ロペス、クリストフ・ヴァルツほか 2020年/92分/スペイン・アメリカ・イタリア 英語・スペイン語・スウェーデン語 原題:Rifkin’s Festival 日本語字幕:松岡葉子 提供:ロングライド、松竹 配給:ロングライド 2024年1月19日新宿ピカデリーほか全国公開中
バフィー吉川