リハーサルなし!?レディー・ガガが語る『ジョーカー2』の撮影現場「すべてがライブ、ありのままでとても新鮮な体験」
社会現象を巻き起こした『ジョーカー』(19)の続編『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』(通称『ジョーカー2』)が公開中だ。本作でアーサーと衝撃的な出会いを遂げる謎の女性リーを演じたのが、俳優としても高い評価を得ているレディー・ガガ。彼女はどんな想いで役に臨み、リーという複雑なキャラクターをどう作り上げていったのか。役に込めた思いや撮影の舞台裏を明かした。 【写真を見る】ヴェネチア映画祭に出席したレディー・ガガ。その抜群のファッションセンスも話題に ■「リーは彼の犠牲者ではなく、常にジョーカーを求めている」 前作に魅了されたというガガは、リー役のオファーを受けた時、なによりも光栄に感じたと振り返る。「私は『ジョーカー』を観た時に、ホアキンがアーサーに与えた深みにとても感銘を受けたんです。ですから出演のオファーをもらった時、あの物語の続きを任せてもらえることに感謝しました」というガガ。彼女にとって本作への参加は、アーサーの相手役を演じること以上の意義があったようだ。「この仕事で大切なのは、役を通して一緒に仕事をする俳優たちや監督たちをサポートし、ストーリーを語ることでもあるんです。アーサーのその後の物語を語る手助けができる。そのことをなによりうれしく思いました」と感慨深げに語った。 リーを演じるうえで大切にしたのは、その世界の住人になりきることだった。「心がけたのは彼女をできるだけリアルにすること、そして物語に沿った彼女の魂を作り上げること。つまりジョーカーとアーサー・フレックに釣り合ったキャラクターにすることです。その作業は楽しくもあり、チャレンジでもありました。リーは常に彼女自身でありながら、時に自分が誰であるかを消去してしまうんです。なぜなら彼女の人生のすべての瞬間がジョーカーだからです。リーは彼の犠牲者ではなく、常にジョーカーを求めているんです」。 リーのジョーカーへの思いは、彼女のメイクを通しても表現されている。「リーのメイクは彼から派生したもの。ジョーカーへの執着からきています。前作を観た時に、アーサーがジョーカーのメイクをするシーンをとてもパワフルだと感じました。リーは自分が幸せになるために、アーサーと同じようにメイクを武器にするんです。いつもステージで様々なメイクを実験している私にとっても、彼女のメイクはとてもパワフルに感じました」とメイクに込めた想いを明かした。 ■「私がリーに与えたのは、音楽が彼女を抱擁するように包み込む感覚」 ホアキンと強烈なコンビネーションを見せたガガ。撮影にあたりどんなリハーサルをしたのだろうか?「実は一度もシーンのリハーサルはしませんでした。スタジオではすぐに撮影に入ったんです。すべてがライブ、ありのままでとても新鮮な体験でした」。ただしキャラクターの想いについては事前に密な打ち合わせを行ったという。「アーサーがリーに望んだこと、彼がそれを必要とした理由。そのことでリーがどのように生き生きと変化したのか。アーサーの心のなかにあるリーはどういったものか、たくさん話し合いました」。緻密なコミュニケーションがアーサーとリーの関係を支えていたという。 歌うシーンでもライブ感はキープしたという。「音楽シーンもその瞬間が大切でした。私のキャラクターになにが起きているか、なにを言おうとしているのかによって何通りかの歌い方をしたんです。アーティストとしてステージに立つ時、私は感情を大切にしています。でもリーは歌手ではありません。そんな彼女が強く声を出すとしたら、その時どんな感情を持っているのか自問しました。ある時はどうしたら彼が必要とする女性になれるかと思いつつ、またある時は自分を落ち着かせようとして歌ったり。私がリーに与えたのは、音楽が彼女を抱擁するように包み込む感覚だと思います」。そんなリーの歌い方は、アーティストとしてのレディー・ガガにも影響を与えるのかと訊ねると答えは「イエス」だった。「間違いなく影響すると思います。リーに限らず、これまで私が作ってきたキャラクターはすべて私の音楽に影響を与えてきました。なぜなら、それはすべて私を通して生まれた一つのものだからです」と彼女の創作活動にけるスタンスを明かした。 ■「私のパフォーマンスは、常に私自身のストーリーや経験と結びついています」 これまでも俳優として多くの作品に出演してきたガガ。本作のトッド・フィリップス監督がプロデューサーに名を連ねた『アリー/ スター誕生』(18)では、アカデミー賞やゴールデングローブ賞など多くの映画賞で主演女優賞にノミネートされた。歌手と同じく演じることにも彼女は自信を持って撮影に臨んだようだ。「小さいころから演技をしていましたし、なによりアルバム作りを通してキャラクターを創造し続けてきたからだと思います。私のパフォーマンスは、常に私自身のストーリーや経験と結びついています。そういったことは多くの点で、演技をすることと非常に似ていると思います」。 前作から引き続き二面性をキーワードにした本作。レディー・ガガがステファニー・ジョアン・アンジェリーナ・ジャーマノッタから派生したもうひとつの人格だと考えると、二面性というテーマは彼女自身にもリンクするのだろうか。「それは私がこの映画に参加したかった理由のひとつでもあります。私が音楽のキャリアで作り上げたものの多くは、自分自身への反抗でした。そんな部分はリーというキャラクターにも反映されていると思います。そして、それはアーサーの物語にも重なります。ジョーカーはとてもパワフルなキャラクターですが、アーサーである日常においては、人々の脇に追いやられてしまう。そんなところに多くの人が共感したのではないでしょうか」。 高い演技力でスクリーンでも存在感を放ってきたレディー・ガガ。しかし本作のリーはそれだけではなく、彼女がアーティストとして培ってきた経験が重要だったとあらためて思い知らされた。表現者としてのレディー・ガガの高いスキルも『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』の大きな魅力なのである。 取材・文/神武団四郎