子どもがアンチエイジングに夢中になり肌のトラブルが続出、背景には一体何が? 米国
フィルターでゆがめられた鏡
私の青春時代には、しみ一つない容姿が好ましく、手に入れることも可能だという神話があったが、それは修正された写真がつくり出した神話で、ほかの人は完璧な容姿を持っているかのような錯覚を起こさせた。 写真の修正は、写真そのものと同じくらい長い歴史があるようだ。パイス氏によれば、19世紀半ばに写真が進化し、しわや毛穴まで見えるようになったころ、人々は写真家に、エアブラシや絵の具で自分の欠点を消してほしいと懇願し始めた。「当時と違うのは、今は誰でもそれをできるようになったことです」 「Facetune」のようなアプリや、どのスマートフォンにも標準で付いている写真編集ツールのおかげで、以前より簡単に写真で欠点のない顔を実現できるようになった。フィルター加工の拡大は、フィルターなしの「ありのまま」の写真を投稿する「#ノーフィルター」という反動まで生み出した。 しかし、ノーフィルターのトレンドはそれほど広まっていないようだ。若い女性の90%の人がセルフィー(自撮り写真)を投稿する前に編集しているという英国での研究結果もある。 そして、それは現実世界にも影響を及ぼしている。2023年に発表された研究によれば、自分の写真を編集している人は、自分は魅力的でないと考える傾向が強かった。また、自分の写真を編集している人は、いわゆる「自己対象化」を行っていた。 自己対象化とは、自己認識を優先するのではなく、他者による外見の評価を自分のものとして取り込むことだ。自己対象化はボディシェイミング(体形批判)、摂食障害、うつ病のような気分障害と関連している。 ティーンエイジャーは仲間からの承認を得るため、さらには、自分の外見の“欠点”に執着する「身体醜形障害」に対処するため、セルフィーを使うことがあるという研究もある。そして、ソーシャルメディアが事態を悪化させることもある。8~18歳の子どもを持つ親を対象に全米規模で行われた2022年の調査では、わが子が自分の外見を強く意識していると答えた親は、そうでない親に比べて、わが子の自己認識は実生活よりソーシャルメディアの影響を受けていると報告する割合が2倍だった。 ソーシャルメディアはもともと、個人に合わせたコンテンツを見せることが得意だ。しかし、以前なら浸透するのに数カ月から数年かかっていたトレンドが、今や数日で主流になってしまう。そのため、広告主はメッセージを広く伝えようとするのではなく、属性やオンライン行動に基づき、ターゲットを絞り込んだ小さな市場を見つけようとしている。これは不穏な展開であり、「子ども+アンチエイジング化粧品」という方程式が突然理にかなったものになる。