1件当たりの追徴税額1,036万円にも…富裕層の「海外投資・暗号資産投資」税務当局が目を光らせる重点分野【弁護士が解説】
「海外投資」は税務当局がとくに目を光らせる分野
ロジカルシンキングの基本概念に「MECE」という言葉があります。「Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive」の頭文字を取った言葉で、直訳すると「互いに重複せず、全体として漏れがない」という意味です。「項目分けをする際にはMECEに気をつけなくてはいけない」などといわれています。 ところが、この国税庁の「主な取組」の構成は、「(1)富裕層に対する調査状況」のなかで富裕層の海外投資について言及し、「(2)海外投資等を行っている個人に対する調査状況」として、項目1つを使って海外投資に言及しているわけですから、MECEになっていません。 しかし、この項目分けを非論理的だと笑うのは早計です。むしろ、税務当局が海外投資にいかに目を光らせているかの現れとして見るべきです。 税務当局の情報収集能力が近年大幅に上がったことも、海外投資の分野が重点的に調査されるようになった一因だといえます。 10年くらい前までは、海外の銀行で口座を開設し、意図的に資産を隠そうとしていた人も少なくなかったと聞きます。 しかし、国際機関OECD主導で作られ、2018年から情報収集がスタートした「自動的情報交換制度」など、税務当局もさまざまな武器を持つようになりました。このテーマについては、記事 『〈富裕層に迫る課税の網〉保有する海外金融資産の情報「税務当局に筒抜け」は本当か?…「自動的情報交換制度」の真実 』でも論じていますので、ご一読ください。
狙われるのは、ネット上の高額取引が多い「暗号資産投資」
3番目の項目「インターネット取引を行っている個人に対する調査状況」は、「(1)シェアリングエコノミー等新分野の経済活動に係る取引」「(2)暗号資産(仮想通貨)投資」の2つに分けられています。 しかし、2021年11月発表分までは、項目のタイトルが「シェアリングエコノミー等新分野の経済活動に係る取引」となっており、暗号資産取引はこのなかのひとつという扱いでした。 その暗号資産投資が、2022年11月発表分から、サブカテゴリーの1つに格上げになったのです。 格上げされただけあって、暗号資産投資は1件当たりの摘発金額が高額です。「シェアリングエコノミー等新分野の経済活動に係る取引」で、1件当たりの追徴税額は320万円、追徴税額の総額は42億円であるのに対し、「暗号資産取引」では、1件当たりの追徴税額は1,036万円、追徴税額の総額は64億円となっています。 では、暗号資産取引について、税務当局はどのように情報収集をしているのでしょうか。 日本国内の暗号資産取引所は金融庁に登録されていますから、これらを通じて行われている取引については、税務当局も情報を入手できるはずです。 一方、海外の暗号資産取引所を通じて行われている取引については、情報収集は簡単ではないと思われます。 また、ビットコイン以外の暗号資産(アルトコイン)のなかには、LINEなどでグループを作り、グループの中で購入していったものもあります。そうしたコインについては、摘発した脱税者からグループメンバーの名簿を入手して摘発していっているようです※。 ※ 日本経済新聞 「仮想通貨で一斉税務調査 14億円申告漏れ、グレー節税も」 (2021年10月3日記事) この文書を読むと、国税庁みずから脱税を摘発する意志を強く示していることが、ひしひしと伝わってきます。納税は国民の義務、しっかり果たしていきましょう。 小峰 孝史 OWL Investments マネージング・ディレクター・弁護士
小峰 孝史,OWL Investments