「最後まで走り切りたい」ドレッドヘアの38歳、堀江翔太が“ラストゲーム”で残した爪痕。最後のワンシーンにも見えたぶれぬ基本の型
その日はやってきた。5月26日。リーグワンのレギュラーシーズンで無敗のワイルドナイツが、東京・国立競技場でプレーオフ決勝戦に臨んだ。 リザーブの堀江が登場したのはハーフタイム明け。対する東芝ブレイブルーパス東京を6―10と4点差を追っていた頃だ。 堀江が入ると、全体の様子が変わった。 グラウンド中盤で大外のスペースを破られる機会は、前半に3度あったのに対し、後半はわずか1回。それ以外の場面では、チームが誇る防御システムが機能した。 1人目が走者に刺さり、2人目が球に絡み、その間、残った選手の大半が横一列に並んだ。向こうにキックを選ばせたり、隙を見てターンオーバーを決めたり。堀江自ら球をもぎ取ることもあった。 シーソーゲームにあって、24分には13―17と差を詰めた。 その直後、自陣のディフェンスシチュエーションであの「ロッキー」ことボーシェーがジャッカル。ペナルティキックを得て陣地を挽回し、28分、20―17と勝ち越した。 守りで流れを引き寄せた。谷と同じく堀江と親しいスタンドオフの松田力也が「前半は僕たちも熱くなりすぎて少し(中央に)寄り気味で。後半はそれが元に戻った。冷静になれた」と振り返る傍ら、堀江はこの調子だ。 「声かけて、指示出して、常にディフェンスし続ける。そうすればチャンスはあるかなって」 万人が振り返るのは、最後のワンシーンだろう。 20―24と再び勝ち越されていた後半39分頃。ワイルドナイツの長田智希がインゴールを駆け抜け、逆転したかに思われたところで時間が止まった。 フィニッシュする少し前のフェーズで、堀江の放ったパスが前に流れていた。テレビジョン・マッチ・オフィシャルというビデオ判定がなされた。 スローフォワードの反則が取られ、トライは取り消された。 しかしその1本においても、ぶれぬ基本の型は見られた。直線的に走って防御を引き寄せながら、スペースへ球をさばく技術だ。投げた瞬間に相手のタックルにひっくり返され、かつ、受け手が無人のスペースを駆け抜けたことからも明らかだ。 何より例の局面を前後し、堀江がどれだけサポートを試み、どれだけボールをさばいていたか。動きの質と量は圧巻だった。 ノーサイド。現役最後のゲームは、今季初黒星に終わった。最後の最後まで上手くなろうとしていたその人は、「やり切ったというか、何か、すがすがしい感じで」と笑った。 取材・文●向風見也(ラグビーライター)
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