『光る君へ』史実との違いに賛否の声も「気にせずに突っ走っていただきたいです」山崎ナオコーラさん語る
社会のアップデートへの貢献には、SNSの存在が大きい
――実際には“私もそう思っていた”という声が多かったとのことですが、それでも『ミライの源氏物語』は、“今の時代”に合ったエッセイだと言われることが多いと思います。この10年ほどでいわゆる社会の価値観が大きく変わったと言われるようになり、多様性という言葉もすごく耳に入って来るようになりました。 <社会のベースが更新されていて、私はすごくよくなってきたと思っていますし、そこに仕事をしてくれたのはSNSの存在が大きいと思っています。小さい違和感なんかはみんなずっと抱えていましたよね? そうした小さな違和感をSNSで表明して、“私もそう思っていた”“私も”と繋(つな)がれた。 それまでは、たとえば何かテレビを見て“あれ、何かおかしい”と思ったとしても、“私だけかな”と飲み込んでいた。それを言葉にするようになって、繋がって、それが繰り返されていったことで、社会全体がアップデートされてきたんだと思います。私は、それはすごくいいことだと感じています> ――『ミライの源氏物語』への感想しかり、モヤモヤを抱えていた人はずっといたと。それを発信する場がなかっただけで。 <そう思います。でも繋がる場所がないと、気持ちを遠ざけてしまい考えることもできなくなってくるから、言葉もなくなる。私も20年前は言葉がなかった。言葉を持って、ちゃんとした考えになって、さらに文章がどんどん出てきたのだと思います>
書店に“男性作家と女性作家の棚を分けるのをやめてほしい”と言いに行った
――20年というキャリアを積まれてきて、いま思うことを教えてください。 <『源氏物語』が書かれた当時、紫式部のほかにも作家はたくさんいたはずです。だけど、作品は現存していない。じゃあ他の作家たちの仕事の意味はなかったのかというと、そんなことはなくて、そういった作家たちが大勢いたから『源氏物語』が生まれたんです。そう思うと、私の書いた作品がきっちり残ることがなくても、何かのちょっとした一助になるだけでもいいんじゃないかなって。 それから文学界隈で、例えば性暴力とか性差別とかがなくなるような仕事場というか、環境づくりにちょっとでも力を与えられたらいいなという気持ちがあります。次の文学者たちの仕事がやりやすくなったり、面白いことへのきっかけになったりする一助になれたらと思っています> ――最後に、この20年間で、変化への一助になれたんじゃないかと実感していることがありましたら、ひとつ教えてください。 <昔書いたエッセイに、働いていた書店の店員さんに“男性作家と女性作家の棚を分けるのをやめてほしい”と言いに行くというのがあったんです。自分自身、かつて書店でアルバイトをしていて、男性作家と女性作家に分けられて並ぶ棚があるのが、すごく働きにくかったんです。 でも今、そういう書店は減っています。それは変化だし、作家だけじゃなくて、書店とかSNSでつぶやく人とか、いろんな人の力でよくなってきたんだと思っています> <取材・文/望月ふみ> 【望月ふみ】 70年代生まれのライター。ケーブルテレビガイド誌の編集を経てフリーランスに。映画系を軸にエンタメネタを執筆。現在はインタビューを中心に活動中。@mochi_fumi
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