米印原子力協定でインドを国際市場のメインプレーヤーに 死去のマンモハン・シン前印首相
インドのマンモハン・シン前首相が死去した。筆者はニューデリー特派員時代、首相だったシン氏にインタビューや記者会見などで取材する機会が何度かあった。 シン氏はいつも、「ロボットのようだ」と評されるほどの抑揚のない語り口調で口数が少なく、記者泣かせの面が多かったが、違っていたのは2014年の下院選前に首相退任を表明したときの記者会見だった。 まるで別人のように多弁に記者の質問に答え、特に首相在任時で最も記憶に残っている実績を問われた際には、迷わず米印原子力協定締結を挙げた。 インドは、領土問題などで対立する中国やパキスタンに対抗するため、核拡散防止条約(NPT)に加盟せず核武装し、米欧などから経済制裁を受けた時期が長かった。しかしシン政権は07年、ブッシュ(子)米政権と平和目的の原子力開発における協力関係などをうたった協定を結ぶことに成功。結果、米国のお墨付きを得たインドは国際市場のメイン・プレーヤーの道に浮上した。経済学者のシン氏は、インドの経済発展に尽力したが、超大国とされた米国との協定はとりわけ感慨深かったのだろう。 シン氏は日本とも良好な関係を結んだ。案件が山積するインド政治で、日本関係の書類はすぐに目を通していたといわれる。 ただしシン政権下のインドは、旧態依然の汚職や経済格差も抱え、14年の下院選で与党が大敗した。こうした問題は、モディ現政権でも続いている。グローバルサウス(新興・途上国)の大国インドは、シン氏が進めた改革を今後も進めていくことになる。 (インド太平洋特派員 岩田智雄)