中国べったりTVへの免許再交付圧力、これが台湾・頼清徳新政権が直面する最初の難関
台湾のNCC(国家通信放送委員会)とは
台湾では3期連続の民進党政権となる頼清徳総統の新政権が5月20日に発足する。 頼新政権は2016年から8年間続いた蔡英文政権とは異なって、立法院(国会)で与党民進党が多数を占めていない「少数与党」の状態にあり、すでに発足した新議会で立法院長(国会議長)ポストは国民党に明け渡すなど、今後の政権運営は難航も予想されている。そして4月、早くも前途多難を思わせる「事件」があった。台湾のNCC(国家通信放送委員会)の人選をめぐる問題である。 【写真】頼清徳台湾総統選勝利の裏で議会・立法委員選挙の陰の勝者は第3極の民衆党 NCCは、通信と放送の融合という科学技術の流れを背景に、アメリカのFCCやイギリスのOfcomなどを参考にして2006年に発足した通信・放送事業を管轄する独立規制機関である。NCC委員は通信、情報、放送、法律、経済などの専門家(主に学者)から選出され、人数は7人でうち1人を主任委員、1人を副主任委員とし、任期は4年で再任も可能となっている。 NCCの遂行する業務内容は、▽通信・放送監督政策の制定、法令の制定、立案、修正、廃止および執行▽通信・放送事業運営の監督管理と免許証の交付▽通信・放送伝送内容のクラス分け制度およびその他の法律事項の規定▽通信・放送秩序の擁護▽通信・放送事業者間の重大な争いおよび消費者保護の案件の処理▽通信・放送業務の監督、調査と裁決▽通信・放送関連の法令違反事件に対する取り締まりと処分、といった幅広いものとなっている。 日本ではこうした業務は総務省が管轄するが、台湾ではFCCやOfcomのように政府直属ではない独立規制機関に管轄させるのである。
ずっと与野党抗争の焦点だった
もっとも「独立」とはいっても、 NCCには放送事業者の免許取り消しや不更新という処分を下せる「大権」があることから、これまでその委員の人選をめぐっては常に与野党間の争いが起きていた。NCCが発足した時期は陳水扁総統の民進党政権だったが、立法院は国民党などの野党が多数を占める「少数与党」という点も現在と同様の構図だった。 NCC発足にあたり、当時の政府は委員の数を当初7人としていた(FCCは5人)が、国民党を中心とする野党はこれを13人に増やした上、立法院の議席に応じて各政党が委員選出のための審査委員を推薦するという複雑な内容の法案を強行採決で通過させた。 もともと立法院の議席に応じて各政党が委員を推薦した場合、与党推薦6人対野党推薦7人になるはずだったが、誰が委員にふさわしいかを審査する「審査委員」を推薦するという形を取ることで、野党側はNCC委員の構成を与党推薦5人対野党推薦8人にすることに成功した。しかしあまりに党派色が濃厚なやり方で決められたため、候補に選ばれた委員のうち与党推薦の3人と野党推薦の1人が就任を拒否もしくは辞退することになり、結局、与党推薦2人と野党推薦7人でスタートするという、バランスの悪い“独立規制機関”となった。 その後、NCC委員の選出方法が行政権の侵害にあたるとして司法院(最高裁)大法官会議で憲法違反とされたことから、委員の選出は行政院が名簿を作成して立法院が同意権を行使する形に改められた。この場合、立法院で与党が多数を占めていれば委員選出が宙に浮く可能性はほぼないが、少数与党の場合は野党が行政院の作った名簿に拒否権を行使することが可能で、NCC委員がなかなか決まらない状況になる可能性がある。これがまさに今回、頼新政権が直面する課題なのである。 行政院は4月30日、新規のNCC委員候補として4人の名簿を立法院に送ったが、その少し前の23日、台湾の各メディアはその人選について報道した。その内容で最も一般的なのは、台湾経済研究院研究四所所長の劉柏立氏が主任委員で、台湾師範大学大衆伝播研究所教授の陳炳宏氏が副主任委員、あとの2人が世新大学伝播管理学部助理教授の羅慧雯氏とNCCプラットフォーム事業管理処長の詹懿廉氏というものである(yahoo 4月23日「【賴政府新人事】NCC委員名單曝光 4學者專家新入榜」参照)。 これに対し野党国民党は、現在NCC副主任委員の翁伯宗氏が再任され、主任委員になるとの報道も出たことに不満を示すとともに、羅氏がNCCによる野党系メディア「中天ニュースチャンネル」の免許不更新を支持していたことを問題視し、「絶対に受け入れない」と強く反発した(中廣新聞網 4月25日「質疑NCC提名人政治色彩濃厚 藍委嗆:絕不接受」参照)。すると行政院は30日、翁氏を主任委員として劉氏を外し、羅氏はそのまま候補とする名簿を立法院に送ったのである。野党に正面から挑戦状を叩きつけるような内容で、国民党だけでなく8議席のキャスティングボートを持つ台湾民衆党も反発し、今後泥沼の抗争に陥る懸念も出てきた。