会社の「集団移籍」は今後増える? WiLL元編集長の花田氏が編集部ごと移籍
「週刊文春」の元・名物編集長として知られ、3月まで月刊誌「WiLL」(ワック社)の編集長を務めた花田紀凱(かずよし)氏が、編集部員ら6人とともに別会社へ移籍しました。終身雇用制度が過去のものとなり、転職に対する敷居はかなり低い時代になって久しいですが、集団移籍といえば、アイドルグループ「SMAP」の移籍騒動も記憶に新しいところです。ビジネスの世界でも、集団移籍は今後増えるのでしょうか。
金融業界では「よくある」
月刊誌「WiLL」は2004年11月に創刊。花田氏は創刊から編集長を務めていましたが、3月に発売した5月号を最後に編集長を離れ、4月に入って移籍先の飛鳥新社がHP上で「月刊HANADA」を創刊することを宣言しました。一方ワック社側は、花田氏は株主総会で取締役を解任されたとして、後任編集長を立てて「WiLL」を継続するとし、4月26日には両方の雑誌が発売されています。
ビジネスパーソンにとって、転職、移籍は個人の意思で決めると考えがちですが、チームごと集団移籍するという事例はよくあることなのでしょうか。 経済評論家の山崎元氏(楽天証券経済研究所客員研究員)は「金融の世界(主に外資)ではグループ単位の転職は昔からよくあり、私も2度経験がある。IT業界などでも事情は一緒でしょう。プロジェクトチーム単位だと、転職後の仕事の立ち上がりが早く、収益化も早い。また仕事の見通しが立ちやすいといった長所がある。グループ転職は今後も増えると思う」と分析。 他方で、「移籍者が派閥を形成して新会社に溶け込みにくいこと、会社側がグループをコントロールしにくいこと、集団で入った者は集団で出て行きやすいなど、受け入れ会社側にはリスク要因もあるのでは」といいます。
「技術流出」につながる?
有力なプロジェクトチームが“引き抜き”などで集団移籍した場合、技術流出などにつながるのではという指摘もあります。法的にはどのような論点が考えられるのでしょうか。 名古屋北法律事務所の白川秀之弁護士は、「職業選択の自由は憲法で認められており、集団移籍をして新たな会社と雇用契約を締結すること自体は、特に問題はない。しかし同業種に移籍する場合、前の企業の秘密などを漏らすことで、不正競争防止法に抵触する可能性があるといった点を認識しておくことが必要でしょう。退職の際に、何年間は同業の職種につかないといった合意書を求められるケースもあると思います」と解説。例えば「今までやっていたブランド名をそのまま使うと知的財産権の侵害に当たる恐れもある」といいます。花田氏は当初、移籍先でも「WiLL」で出すと伝えられていましたが、結果的には「月刊HANADA」創刊としており、こうした側面に配慮した形がみられます。
また山崎氏も「転職する側は、会社のビジネスを損なう意図がないことを、形式上整えて事を運びつつ、個々人の契約内容を踏まえて、移籍を完了する必要がある」と話しています。 新聞、雑誌を中心にしたマスコミ業界では、敏腕編集者や個性的な上司に魅力を感じ、「親分」が動くなら自分もついていくといった動きはレアケースではありません。また、人工知能分野では大学の研究プロジェクトチームが、近い将来世界的企業に引き抜かる時期が来るとの予測も出始めています。今後、集団移籍は当たり前の世界になるかもしれません。