宇野昌磨「感傷に浸りながら...」思い出の曲をアイスショーで再演 「自己満足」掲げた今季に見せた真骨頂
【楽しくない先に楽しいことがある】 「自分自身に興味があるので、(これから)どうなるのかっていうのが(モチベーションに)あります」 今シーズン開幕前、宇野はそう語っていた。他者との競争からは脱していたのだろう。世界を連覇した絶対王者として、自分の道を行くしかない。 あるいは、王者という称号すら彼自身が求めるものではなく、フィギュアスケートというスポーツに対する愛情のようなものこそ、彼の燃料なのかもしれない。 「自己満足」 彼はシーズンのテーマをそう設定していたのが、その証拠だ。 2023-2024シーズンを総括すると、宇野は自分と対峙し、結果を残したと言えよう。 グランプリ(GP)シリーズは、中国杯とNHK杯はどちらも2位、GPファイナルも2位だった。しかし、全日本選手権では6度目の優勝を飾っている。最終グループに近づくたび、5、6人が次々に点数を塗り替える熾烈な争いで、彼が決着をつけた。 「たくさんの全日本を経験してきましたけど、これだけ皆さんのすばらしい演技が続くことはなかったんじゃないか、と思いました」 宇野はそう振り返って、こう心境を明かしていた。 「自分も、一日も無駄にしないような練習はしてきたつもりです。いい時、悪い時とあって、試行錯誤のなかで今日に至るというか......。正直、僕は表現を頑張りたいです。ジャンプの練習は嫌いではないですが、調子が悪くなってしまうとストレスでしかない。 やはり表現とジャンプの両方を頑張りたいんですが、競技をやる以上はジャンプ(のほう)を頑張らないといけなくて。それが楽しいかと言われたら、楽しくない先にも楽しいことがあるといった感じです」 じつに正直な青年だ。
【勝つべくして勝つために】 今年3月、3連覇がかかった世界選手権では、宇野の表裏が出た。ショートプログラム(SP)、フリーとどちらも彼らしかった。 SPでは映画『Everything Everywhere All at Once』からの『I Love you Kung Fu』で、今シーズン世界最高得点を記録して首位。フリーでも、『Timelapse / Spiegel im Spiegel』という静謐なプログラムをエモーショナルに滑った。しかし、ジャンプの失敗が響き、得点は伸びていない。ふたつとも彼の偽らざる姿で......。 「僕はフワッとしたのはあまり好きではなくて。たとえば、勝負強さって運がいいだけにも思えるんです。メンタルはすごいけど、自分にとっていいことではない。基本は練習してきたことが試合に出るべきで。試合ごとに課題を見つけ、次の試合に活かせるか」 その言葉どおり、勝つべくして勝つ、負けるべくして負ける、を切実に求めているのだろう。 改善にこそ、彼の真骨頂はある。たとえば、4回転フリップ、4回転ループというジャンプに悪戦苦闘しながら果敢に挑戦し、同時にプログラム全体の精度を上げ、ステファン・ランビエールコーチの期待に応えることに価値を見出していた。プロセスそのものを楽しんでいるのだ。 宇野は、己の道を行く。今夏には、昨年好評を博した『ワンピース・オン・アイス~エピソード・オブ・アラバスタ~』を再演することが決定。主人公モンキー・D・ルフィの役はもうひとりの彼で、さらなる可能性と言える。 『プリンスアイスワールド』横浜公演はゴールデンウイーク中の6日間12公演が予定され、宇野はすべてに出演することになっている。 <村元哉中・高橋大輔「かなだい」初の振り付け曲は「けっこうレア」狂おしい臨場感に大歓声>を読む
小宮良之●取材・文 text by Komiya Yoshiyuki