【コラム】ミュージカル『SIX』はここがすごい! 来日版&日本キャスト版の見どころを紹介
むせび泣いたブロードウェイ版
2度目の観劇は2022年春、コロナ禍を経て再開されたばかりのブロードウェイ。海外旅行に様々な手続きが必要だった時期で、行くだけで既に疲れ果てていた感があったため、なんとしてでも気分を上げたくて、到着初日の一本に選んだのがこの『SIX』だった。これが大正解で、開演“6”分前のアナウンスで「Welcome back to Broadway!」と言われた時の、あの腹の底から湧き上がるような感動は生涯忘れられるものではないし、観ている間もカーテンコール中にも帰り道にも、大げさではなく何度もむせび泣きしてしまった。 むせび泣くようなイタいオタクは筆者くらいだったかもしれないが、また劇場で演劇が観られる喜びと作品の面白さに気分が高揚していたのは皆同じ。最前列に座っていたある青年などは、舞台上でクイーンが歌い踊っている真っ最中に、なんと立ち上がって自分も歌い踊り始めてしまった。そんな青年に周りの観客も出演者も、白い目で見るどころか大喝采。最終的にはクイーンが、「It’s MY song!」と座らせてさらなる大喝采を浴びていた。係員が飛んできて、いさめるか連れ出すかしてもおかしくないようなハプニングがこれほどハッピーな決着をみたのは、そもそも盛り上がることが大好きなブロードウェイで、しかも再開直後というタイミングだったことももちろんあろうが、『SIX』だからこそでもあるだろう。それくらい、とにかく楽しくて気持ち良くて解放的な作品なのである。
来日版に寄せる期待
ここで少し余談を。筆者は小学生のある時期をロンドンで過ごし、現地の学校に通っていた。慣れない英語で授業を受ける日々は目まぐるしく、学べたことも覚えていることも少ないが、歴史の授業に何度も登場したヘンリー8世の名前や経歴、周辺人物については忘れられないものがある。特に2番目の妻アン・ブーリンのことは、指が6本あったらしいというトリビアまでも含め、帰国してからもずっと記憶に残っていた。英国におけるヘンリー8世はそれくらい――きっと日本で言う徳川家康くらい――、学校で繰り返し習うがゆえに、誰もがそこそこ詳しく知っている人物だ。 何が言いたいかというと、まず『SIX』は、そんな英国だから生まれ得たミュージカルだということ。しかしそれでいて、そんな英国でこそ受ける作品かと思いきや、ブロードウェイでも受けまくっているということ。そして、ということは日本でも、まず間違いなく受けるということだ。たとえヘンリー8世のことを徳川家康ほどは知らなくても、新しくて面白くて楽しくて気持ち良くて現代社会を映す解放的なミュージカルに、日本の観客も大興奮したりむせび泣いたりすることだろう。また2度観たことで、キャストによって印象が変わる作品であるとも感じたため、3度目の観劇に臨めるのが個人的にも楽しみだ。