『よりもい』『ラブライブ!』にみる花田十輝の脚本術 高まる『ユーフォ』第3期への期待
吹奏楽がテーマになったTVアニメのシリーズ最新作『響け!ユーフォニアム3』が4月7日からNHKのEテレで放送スタートする。これまでのTVシリーズや最新作『特別編 響け!ユーフォニアム~アンサンブルコンテスト~』のシリーズ構成・脚本を手がけた花田十輝が、引き続きシリーズ構成を担当するとあって展開への安心感は抜群だ。Eテレで放送中の『宇宙よりも遠い場所』(以下、『よりもい』)や、3月15日から4DX版が上映となる『ラブライブ!The School Idol Movie』などの『ラブライブ!』シリーズで見せた、“青春期にある女子たちの群像劇”を描ききる手腕の持ち主だからだ。 【写真】花田十輝が脚本を務めたアニメ作品 TVアニメ『響け!ユーフォニアム3』は、武田綾乃による小説シリーズの完結編として前後編で出た『響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、決意の最終楽章』(宝島社文庫)をアニメ化するものだ。京都にある北宇治高校吹奏楽部に入部した黄前久美子が、ユーフォニアムを担当し、滝昇という顧問の下で厳しい練習をこなしながら全日本吹奏楽コンクール出場を目指すストーリーの延長で、部長を引き継いで3年生になった久美子が、高校生活で最後となる全国大会出場に向けて動き出す。 PVで公表されているように、『響け!ユーフォニアム3』では戸松遥が声を演じる黒江真由という女子生徒が新たに登場し、久美子と同じユーフォニアムを吹きたいと話す。原作ではこの後、久美子の立場が揺らぐ展開となって、TVシリーズの第1期で起こったような、競争の厳しさを感じさせるストーリーが繰り広げられていく。同時に、新1年生が入部してきて、『劇場版 響け!ユーフォニアム~誓いのフィナーレ~』に描かれた後輩との探るような関係作りが繰り返される。 増えていくキャラクターをどう捌いていくのか。そして揺れ動く久美子の心情をどのように見せるのか。過去のシリーズで原作の展開を踏まえつつ、キャラクターたちの性格を際立たせるようにしてそれぞれのドラマを見せてくれた花田十輝なら、最新シリーズでもドラマチックな展開を経て、感動のクライマックスへと導いてくれることだろう。2015年に放送されたTVアニメ第1期の『響け!ユーフォニアム』でも花田十輝は、どこか煮え切らないところがある性格も含めて久美子のキャラクター像を膨らませ、主人公性を高めた。これによって、同級生の高坂麗奈との関係がグッと近づく第8話の大吉山でのシーンで久美子と麗奈の存在が際立ち、シリーズ全体を貫く柱のようなものになっていった。 第12話で久美子が顧問の滝から、京都府大会ではあるパートを吹かなくていいと言われて衝撃を受け、宇治橋の上を「上手くなりたい!」と心の中で叫びながら走るシーンは、原作にはないオリジナルのエピソードだ。原作の第1巻では久美子自身に関する大きなドラマがなかったことから、主人公らしさを見せるために脚本の側でオリジナル展開を提案したという。 この第12話では当初、久美子と先輩の田中あすかとの対決を検討していたが、あすかというキャラが「ミステリアスなままで終わった方が、キャラクターとしての大きさが出せる」といった考えもあって採用しなかったと、花田十輝はインタビューで語っている。(※)結果、原作の第2巻と第3巻で描かれたあすかの複雑なバックグラウンドや醒めた性格が、アニメ第1期の描写と齟齬を来すことなく繋がって、タイトル回収につながるTVアニメ第2期の感涙のクライマックスへと至った。 あすかが久美子の脚に冷えたペットボトルを押し当てて、驚く久美子に「ちびった?」と悪戯っぽく聞くオリジナルのセリフを入れたことで、直後に「心の底からどうでもいいよ」と吐き出すあすかの底の知れなさも際立った。こうしたキャラクター性のコントロールが、あすかにも増してつかみ所がない黒江真由という新キャラクターにどれくらい働くかが、第3期でも注目ポイントとなりそうだ。 第3期では他にも、久石奏や鈴木美鈴のように拗らせたところを持った後輩の新1年生が登場してくる。キャラクターを捌く手腕が問われるが、そこは『ラブライブ!』や『ラブライブ!サンシャイン!!』でそれぞれ9人のメンバーがいるアイドルユニットのストーリーを、メンバーひとりひとりのドラマもしっかりと描きながら作り上げていった花田十輝だ。安心していいだろう。 ●『よりもい』『ラブライブ!』の作劇には“共通点”も 通っている高校が廃校になるかもしれないという危機に、女子生徒がアイドルユニットを結成して「ラブライブ!」という大会に挑み、勝つことで学校の知名度を上げて生徒を増やそうとする。そんな『ラブライブ!』のストーリーの上で、高坂穂乃果というメインヒロインを軸に、様々な事情を抱えた上級生や下級生が加わっていって「μ's」というユニットが結成される展開は、毎回山場があって驚きがあり感動があった。 第2期の第9話「心のメロディ」は、2016年に開かれたμ'sのファイナルワンマンライブで、東京ドームを白一色からオレンジ一色へと変わるペンライトで染めた名曲「Snow halation」が初披露されるまでのドラマを、スリリングな展開の中に描いてみせた。ライブが成功するかという危機にメンバーが一丸となって挑むストーリーは、『ラブライブ!サンシャイン!!』の第2期第6話「Aqours WAVE」にも登場。メインヒロインの高海千歌がアクロバティックな技を完成させようと努力する姿が、他のメンバーが励ましたり支えたりする展開の中で描かれた。 個々のキャラクターたちについて背景がしっかり語られてきたからこそ、総力が結集して何曲を突破していく展開に説得力があり、感動も生まれる。こうした作劇の妙は、キャラクターたちが南極を目指す『よりもい』でも存分に発揮されている。 高校に入っても何もやっていないと感じていたキマリこと玉木マリが、南極行きにこだわる小淵沢報瀬と知り合い、集団生活に馴染めずコンビニで働きながら大学を目指している三宅日向も加え、女子高生タレントの白石結月に着いていく形で南極行きを果たす展開は、『ラブライブ!』でも見たものだ。メインキャラが4人ということで、それぞれのキャラが背景も含めてしっかりと描かれていて、そこに自分と重なるところを感じた人を引きつけている。 さらにもう1人、キマリとは幼なじみの高橋めぐみのキャラクター性が、夢中になることにどこか冷めている人の心を串刺しにする。2月3日放送の第5話「Dear my friend」でめぐみが吐露した心情に揺さぶられて自分はどうだと顧みる。キャラクターの造形と配置の巧みさがくっきりと浮かんだエピソードだった。 振り返れば、2007年放送の『アイドルマスター XENOGLOSSIA』の頃から既に、花田十輝は多感で多彩なキャラクターたちを造形し、重ね合わせて描いて見る人の関心と共感を誘っていた。アーケードゲームの『THE IDOLM@STER』と同じキャラクターを使いながら、少女たちがアーティストとしてのアイドルを目指すのではなく、「アイドル」と呼ばれるロボットを操り地球を守る「アイドルマスター」となって戦うという、ゲームとはまったく異なる設定とストーリーにしたことで、ゲームのファンが違和感を覚えた作品だ。 ただ、単体で見れば少女が夢を求めて都会に来て、役割を与えられる中で友情を育み、反発も浴びながら成長していくストーリーが、深いSF的な設定の上で圧巻のロボットバトル描写を伴いながら描かれた作品だった。同じ頃に放送された『コードギアス 反逆のルルーシュ』や翌年放送の『マクロスF』に並ぶ完成度を持ったロボットアニメだ。 そこには、『響け!ユーフォニアム』や『ラブライブ!』では描かれていない裏切りや憎しみといった強い感情を伴うドラマがあって、シリーズ構成や脚本を手がけた花田十輝の筆が及ぶ範囲の広さを見せてくれている。『よりもい』のめぐみというキャラが醸し出していた“悪意”の源流も見て取れる。それを辿る意味合いも含め、今一度『アイドルマスター XENOGLOSSIA』にも目が向けられてほしいところだ。 参照 ※『アニメスタイル007』
タニグチリウイチ