「生きることは厳しいけれど......」トリュフォーが教えてくれた、人生の美しさとは?
文筆家・村上香住子が胸をときめかせた言葉を綴る連載「La boîte à bijoux pour les mots précieuxーことばの宝石箱」。今回はフランス映画界の巨匠、フランソワ・トリュフォーの言葉をご紹介。 いつも順風満帆というわけにはいかない。何度も転けたりつまずいたりしていると、もう投げ出してしまいたくなる。そんな時ふと優しい気持ちになって、そっと掬い上げてみると、これまで濁っていると思っていた水が、よくみるといつの間にか澄みきっていたりする。人のこころは、そういうマジックを起こすこともできるのだ。
少し視点を変えただけで、どんなものも美しく変えることもできる、とトリュフォーは言いたいのだろうか。美しい、とはどういう意味なのか、よくわからないけれど、恋の達人のトリュフォーなので、もしかしたらやはり恋心を表しているのかもしれない。 愛というのは、たかだか三年か四年で破壊して、崩れ落ちてしまうものでもないはずだけど、やはりどうかするといろいろな試練の中で、厳しい状況に陥ってしまうこともあるものだ。それでもふと何かの折に心をこめたことばをかけてみたり、思いがけない贈り物をしたりして、相手の気持ちに寄り添ってみると、自然と絡み合っていた糸がほどけることもあるかもしれない。そんなことも言いたいのかもしれない。 実はうちの鉢植えの白つつじが、私の手入れがよくなかったのか、すっかり枯れてしまっていたので、捨てようと思って外に出していた。ごみに出そうとしていたある朝、なんとよくみると小さな芽が出ているのに気づいた。ふたつも三つも出ている。うっかり捨てるところだったが、慌てて精魂込めて水をやり大切にしていたところ、翌年には立派な花を咲かせてくれた。白い花に詫びたものだ。 いまではすっかり見慣れた、萎れた花でも、よくみると一生懸命に芽を出していることもあると思う。捨てる前にもういちど見直すことが必要かもしれない。そうしたことを、マエストロ・トリュフォーは教えてくれる。