映画『青春18×2 君へと続く道』藤井道人監督インタビュー──「いままでもこの先も、自分を投影しないもの・できないものは僕には撮れないなと思います」
成功体験から学んだこと
──『青春18×2 君へと続く道』を経て、俳優演出や現場のマネジメントなど、意識の変化はありましたか? 50%は「今までやってきたことが間違っていなかった」、もう50%は「もっと変われる、もっと面白いことがこの先待っているだろう」という想いです。短い期間でもこんなに楽しいんだったら、この先もっと面白くなるという予感がしました。スタイルの違いはありますが、結局みんなで映画というものをシェアしているからネガティブな感情がすごく少ないんです。 これがライスワーク(生活のための仕事)に近い状況だったら少なからず「やりたいことと違う」というネガティブな感情が組の中に蔓延していたような気がします。今回の作品は誰も「ご飯のための仕事」と思っていなくて、「面白い場所に遊びに来た」結果が仕事になるというものでした。この成功体験から学んだことは少なくありません。 ──ネガティブな要素をなるべく減らしていくことが、推進力になるのですね。 ライスワークってある種の言い訳なので「ライフワーク以外やらない」と決めたときにモチベーションが下がらなくなりました。ライスワークをやると「ライフワークが失敗したらどうしよう」という恐怖や「ライフワークのためにやってきたのに」という不満が生まれてしまいます。自分の生活を映画に捧げ過ぎてしまい、精神のバランスが取りづらくなった時期が20代~30代前半までありました。 僕はお金が欲しいとは思いません。素晴らしいマネージャーがいてくれるからこそですが、まったくギャラ交渉もしていないですし、余計なストレスもなくなりました。もちろんキャリアを積んで「1日3000円でお願いします」と言ってくる人がいなくなったというのもありますが、自分が「意味がある」と思えたらそれでもいいという考えになってから、だいぶ楽になりました。 ──ライフワークで生活が成り立つようになった。これまでの努力が実った形ですね。 修業時代は滅茶苦茶きつかったですね。ただ、あの時代を経験したことで貧乏に慣れて、お金を使わなくなりました。そして、僕は貧乏時代を生活こそ苦しくとも、決して「貧しい」と思ったことはありません。 ──金銭的に苦労した反面、時間にゆとりがあったり、色々な創意工夫が生まれたりと、ものを作るうえでは豊かさにつながる部分もありますしね。 そうなんです。最近、尊敬している俳優に「クリエイティブに全振りしているから、他のことは何もできないもんね」とからかわれたのですが、そんな自分が全然嫌ではなくて。あの頃もいまも、自分にとってはものを作ること自体が幸せなんです。 この仕事は結果がつきものではありますが、他者からの評価が昔ほどプレッシャーではなくなりました。一つは、ライフワークに振り切ったこと。もう一つは、大赤字にならないようにどうするかといったような、自分たちが遊びを続けるためのノウハウが確立出来てきたのが理由です。映画を趣味で撮る方や、何年かに1本映画を撮る方もいらっしゃいますが、僕たちはそんな器用ではなく他に出来ることがないから、必要なものだったのだと思います。