野球未経験者多数の連合チームが奪った「執念の1点」【24年夏・鹿児島大会】
明桜館は立ち上がり、無死満塁から4番・松下 侑世(3年)の右前2点適時打で先制する。2つの暴投と押出し、捕逸で、更に4点が加わり、打者10人で3安打ながら6得点にビッグイニングで主導権を握った。 2回にも2点を失い、8点差を追いかける奄美・古仁屋は3回裏、3番・壽 龍之助(1年)の右前適時打で1点を返した。 【トーナメント表】鹿児島大会 6日までの結果一覧 明桜館は4回表、挟殺プレーの乱れと代打・長野 煌哉(3年)の犠飛で2点を加え、6回にも集中打を浴びせ、更に2点を追加した。 5回コールドは阻止した奄美・古仁屋だったが、最後まで攻守のミスが絡んで波に乗れなかった。 「自分が塁に出て走れば、必ず得点につながる」。 3回裏、四球で出塁した奄美・古仁屋の1番・玉利 空穂(3年)は初球からスタートを切る。2番・田中 涼雅(2年)が遊ゴロでアウトになる間に一気に三塁まで陥れた。3番・壽が鮮やかに右前に弾き返し、「一死報いる」(酒匂 千速監督)1点を返した。 4月に酒匂監督が就任。9人の1年生が入部して連合チームとしても活気づいたが、練習試合は大型連休中の3試合、公式戦は地区大会の1試合。今大会が5試合目の実戦だった。実戦経験の少なさが攻守のミスにつながり、持ち味を出し切れないまま終わってしまったのが、悔やまれる。 「空穂のすごさが伝わる1点だったのでは」と江上 翼主将(3年)は唯一の得点シーンを振り返る。中学時代は野球経験者の空穂だが、高校では硬式ボールに変わる不安と、人数不足で大会に出られないかもしれないということで、サッカー部や陸上部で活動。江上主将や従弟の玉利 彪雅(2年)らの勧誘で再び野球を始めたのは昨年の11月だった。初回に二盗、三盗と立て続けに決めたように、野球センスと運動能力は光るものを持っているのを証明した。それだけに「もっと早くに野球をやっておけば…」と悔やむ気持ちが終わってから湧いてきた。 連合チームで16人のメンバーがいるが野球経験者は少ない。江上主将も古仁屋の中治 春主将(3年)も高校から野球を始めた。田検中時代はバレーボールやサッカーをしていた江上主将は「道具を使うスポーツをやってみたかった」「あえて難しいスポーツに挑戦して自分を追い込んでみたかった」と独特な理由で野球部の門を叩いた。1年秋以降は単独での出場が叶わず、古仁屋や喜界との合同チームで大会に出続けるなど、苦労も多かったが「他校の選手とチームメートになれて、貴重な経験ができた」と言う。 自分たちの夏は終わったが、もう1日鴨池に残り、春まで一緒のチームだった喜界の初戦を応援してから「高校野球」を締めくくるつもりだ。