神山健治 監督が語る 手描きアニメだからこそ作品としてのすごさを表現できた『ロード・オブ・ザ・リング ローハンの戦い』
夢の途中、でも幸せな時間
池ノ辺 そうやって、素晴らしい作品に仕上がったわけですが、特に、この作品ではヘラがかっこよかったですね。日本語吹替版では小芝風花さんが声をあてています。小芝さんは監督の推薦ということでしたが、彼女のファンだったんですか。 神山 そうですね、彼女が出ているドラマを何本か見ていて、小芝さんならピッタリだと思っていました。あと、たまたま車で移動している時に聞いていたラジオに出演していて、「一番好きな動物は?」という質問に「シャチ」と答えていたんですよ。理由は「かっこいいし、最強だから」と(笑)。それを聞いて、「この人は自分をシャチに準えていて、負けず嫌いで芯の強い人なんじゃなかろうか」と思って。それが決め手になりましたね。 池ノ辺 アニメの吹替は初めてだったとか。 神山 そうですね。これより前には実写の映画『ツイスターズ』(2024)の吹替をしていますが、アニメは初めてだったと言っていましたね。実際、アフレコ前にお会いした時も、直前まで不安そうにされてましたけど、必ずできるからと伝えました。これは僕の経験上、本人のパーソナリティというのは必ず声に乗ってくる。ヘラの持つ強さは、もともと彼女の中にあるはずなので、それがうまく引き出せるかどうかです。うまく引き出せなかったとしたら、それは僕の力不足です。 池ノ辺 本当に、ヘラにぴったりの声だと思いました。 神山 第一声から素敵でした。この人にお願いしてよかったと思いましたね。 池ノ辺 そういう意味では、日本語吹替版の声は、皆さんハマっていました。市村正親さんはどうでしたか。 神山 ヘルム王の強さ、豪快さ、そこはもちろん表現してくださったんですけど、なおかつ、末娘のヘラを含む3兄妹の父親としての思い、そうしたものも演技として声の中に乗っていると思います。さらに、市村さんご自身が、スクリーンの向こう側にいるお客さんを楽しませたい、ヘルムというキャラクターを通して感動させたい、そういう思いがすごく強い。こちらの演出とは別に、ご自身の中で、「ここはこういう声でいく。ここで絶対に決めるんだ」という確固たるイメージがあって、そこを表現するためには声を枯らしてはダメだ、ということで、通常の合図などは身振り手振りで極力声を出さず、芝居のために全部の声の力を使っていました。とにかくヘルム像を表現するためにもう全身全霊でやっていただいて、こちらは演出する側なのに、見ていてどんどん好きになっちゃいました。 池ノ辺 じゃあアフレコは、幸せな時間でしたね(笑)。では、最後にお聞きします。監督にとって、映画ってなんですか。 神山 もう少しいろいろ作品を撮っていたら「人生」と言いたいところですが、今はまだ「夢」ですかね。いつかは、その(映画)の正体を知りたい到達したい目標です。 池ノ辺 監督はもともと映画の仕事がしたかったんですか。 神山 映画監督になりたいというのが、子どもの頃からの夢でした。 池ノ辺 それはおいくつの時ですか? 神山 12歳の時、『スター・ウォーズ』(1977)を観てです。うちの近くにいわゆる「二番館」があって、小学校3年生くらいから、『ニュー・シネマ・パラダイス』(1989)の少年みたいにその映画館に通っていました。 池ノ辺 最初の夢が実現したんですね。 神山 まだ途中ですけどね(笑)。
インタビュー / 池ノ辺直子 文・構成 / 佐々木尚絵