私も見たことはない……刈った羊毛でフェルト作る。遊牧民の技術伝承の危機
日本の3倍という広大な面積を占める内モンゴル自治区。その北に面し、同じモンゴル民族でつくるモンゴル国が独立国家であるのに対し、内モンゴル自治区は中国の統治下に置かれ、近年目覚しい経済発展を遂げています。しかし、その一方で、遊牧民としての生活や独自の文化、風土が失われてきているといいます。 内モンゴル出身で日本在住の写真家、アラタンホヤガさんはそうした故郷の姿を記録しようとシャッターを切り続けています。内モンゴルはどんなところで、どんな変化が起こっているのか。 アラタンホヤガさんの写真と文章で紹介していきます。
遊牧民の彼らはウヘル(牛)、モリ(馬)、テメィ(ラクダ)、ホェニ(羊)とイマーガ(ヤギ)の5種類の家畜と共に生きる。これらをモンゴルでは「タボン・ホショー・マル」と言う。日本語に訳すと「5種の家畜」という意味だ。 現在は羊とヤギが、遊牧民の現金収入を支える大切な家畜になっている。十数年前までは、一部地域で羊やヤギの乳を搾り、乳製品を作っていた。だが今は、限られたわずかな地域をのぞき、ほとんど見かけなくなった。 羊の毛は、ゲルに使用されるフェルトの原材料だ。昔は、夏に羊の毛を刈ると、周辺の遊牧民も集めて協力し、フェルトを作っていたという。だが、もうほとんど作られなくなって、現在は市販のフェルトを使用している。私も実際に見たことは、今まで一度もない。 羊の毛と皮も、かつては自分たちで加工し、防寒用の帽子や衣装の大切な材料として使用してきた。しかし、こうした家畜の毛皮を加工して日常生活に使用する伝統技術は忘れ去られ、伝承の危機に直面している。 ヤギの毛は、日本でもおなじみのカシミヤとして、今も高く売買されている。(つづく) ※この記事はTHE PAGEの写真家・アラタンホヤガさんの「【写真特集】故郷内モンゴル 消えゆく遊牧文化を撮る―アラタンホヤガ第11回」の一部を抜粋しました。
-------------------- アラタンホヤガ(ALATENGHUYIGA) 1977年 内モンゴル生まれ 2001年 来日 2013年 日本写真芸術専門学校卒業 国内では『草原に生きるー内モンゴル・遊牧民の今日』、『遊牧民の肖像』と題した個展や写真雑誌で活動。中国少数民族写真家受賞作品展など中国でも作品を発表している。 主な受賞:2013年度三木淳賞奨励賞、同フォトプレミオ入賞、2015年第1回中国少数民族写真家賞入賞、2017年第2回中国少数民族写真家賞入賞など。