日本中に「ネパール人経営のインドカレー店」がある「意外な理由」
格安インドカレー店はなぜどこにでもあるのか? スパイシーな現実に迫る魅惑のノンフィクション『カレー移民の謎~日本を制覇するインネパ』(集英社新書)が発売中。著者・室橋裕和さんのインタビューをお届けします。 【写真】イギリスで日本の「カツカレー」が“国民食”になっている驚きの理由 ---------- むろはし・ひろかず/'74年、埼玉県生まれ。『日本の異国 在日外国人の知られざる日常』『ルポ新大久保 移民最前線都市を歩く』『北関東の異界 エスニック国道354号線-絶品メシとリアル日本-』など著書多数 ----------
格安インドカレー店の謎に迫る
―なぜいま、日本全国いたるところにインドカレー屋があるのか? そして、なぜどの店でも「バターチキンとナン」が定番なのか。そんな疑問に答えてくれる一冊です。 今年2月にもインドを旅して再確認したのですが、日本のインドカレー屋でおなじみの「バターチキンとナン」を食べる文化があるのは、インドでも北部くらい。しかも家庭ではなく外食で楽しむもので、そんなに一般的ではないんですよね。 現地ではふだん食べるカレーはもっとサラサラとしているし、ナンよりも全粒粉を練り込んで薄く焼いたパンのロティ、チャパティのほうが、広く食されています。 あの濃厚なバターチキンや、大きなナンが日本で広まったのはなぜか。まず、昭和の時代に来日したインド人が店で提供したのが源流です。そこから料理を一般的にしたのはインド人たちよりむしろ、彼らの店で働き、後に独立していったネパール人だったんです。 ―ネパール人が経営し、コックとして働くインド料理店「インネパ」は、一説によれば現在、日本に約5000店もあるというから驚きです。 インド出身の人や、本格派のインド料理を志向する人が言う「インネパ」の響きはちょっと侮蔑的な意味がこもっているように感じますが、「インネパ」は立派に日本文化に溶け込んだ存在です。 日本人に向けてあんこ入りのナンを作ったり、お酒も焼酎のいいちこのボトルを置いていたり。ランチ時には、おかわり無料のナンで勤め人や学生の腹を満たしてくれる……。そういう日本的なあり方に寄り添って変化する柔軟さを、ネパール人は持っていたんです。 さらに、インド人ではなくネパール人がカレー店を拡大させた理由として、カースト制の影響もあります。インド人は、厳しい身分制ゆえに例えばカレー係、タンドール(壺型の窯)係と、一人ひとり役割が決まっている。対してネパール人は一人で料理から掃除まで何でもやる。だから、人件費が安く抑えられて、店舗もどんどん拡大していったのだと思います。