『書店員が選ぶ絵本新人賞』大賞受賞・ただのぶこ「小学校の臨時教諭を定年退職後、創作を開始。7年絵本の賞に応募し続け、76歳で夢を叶えた」
◆私の「願い」が詰まった一冊 教え子でも近所の子どもでも、彼らは面白いことをいっぱいしてくれますから、絵本の材料に事欠きません。でも物語は、もっとなにげないときにも生まれます。 雑巾がけをしていて濡れた部分が「を背負って行者の装束を着た狐」に見えて、ふと「狐が手に大きな石を持っていたら?」と考える。そうすると次々と物語が頭のなかに浮かんで、雑巾がけそっちのけで座り込んでしまうんです。 浮かんだお話は、その場ですぐメモ。あとで膨らませていきます。これは『きつね行者と願い石』というお話になりました。 絵本づくりで夜更かしをするようなことはありませんが、朝から夕方まで集中して色付け作業をしていると、夫が「ごはんできたで~」と食事の用意をしてくれます。焼き飯とか、上手なんですよ。
私が描く風景には、自宅近くの野山や、夫と山登りをしたときに見た景色が出てくることが多いですね。今回、大賞をいただいた『はるさんと1000本のさくら』は、桜の季節に、夫と吉野に出かけたことで生まれた作品です。「一目千本」と呼ばれる場所があるんですが、もう山が一面、桜で埋め尽くされていて、間にちょいちょいっと緑があって、その美しさに圧倒されました。 ふと見ると、山仕事をしているおばあさんたちの姿があります。あの人たちが一生懸命に生きてきた結果が、次の世代に残るといいなあ。そんなことを考えていたら、 「あと10人。 わたしは 86さい。 はるさんは かんがえます」 という書き出しがパッと浮かんで、あとは不思議なほどつるつる、とお話が出てきました。絵本ですが、子どもだけでなく、いろいろな世代の人に読んでもらえたら嬉しいです。 年をとると、願うことが多くなります。孫が元気に育ってほしい、子どもたちには笑顔で過ごしてほしい、平和な世の中になってほしい、みんなが仲良く幸せになってほしい。 だから、これは私の「願い」が詰まった一冊です。この受賞を力にして、またぼちぼちと絵本づくりを続けていこうと思っています。 (構成=篠藤ゆり、撮影=洞澤佐智子)
ただのぶこ