【マカオ】マカオ通じ日系も大湾区へ 澳門日本商会理事長、中小に商機
マカオはきょう20日、中国に施政権が返還されて25周年を迎えた。返還後の対外開放政策により経済成長を遂げたマカオは、中国広東省の珠江デルタ9市と香港とともに形成する一大経済圏「粤港澳大湾区(グレーターベイエリア)」の一翼として存在感を高めている。マカオ初の日系関連経済団体「澳門日本商会(マカオ日本商工会議所=MJCC)」の蕭志偉(ドミニク・シオ)理事長は、マカオを単一のマーケットと見るのではなく、大湾区への足がかりとすることで日系の中小企業のビジネスチャンスが大きく広がるとの見方を示す。 ――返還からの25年でマカオはどう変わったか。 私が子どもの頃のマカオは漁村のようで、香港の人が週末に買い物やカジノを楽しんで帰る場所だった。皆が知り合いで、競争がしにくい環境だった。 今日のマカオの発展は返還後の開放政策によるものだ。2002年に当時の何厚カ(エドムンド・ホー、カ=金へんに華)行政長官がカジノの利権を開放し、自由競争を促した。競争が生まれたことで教育が重視されるようになり、高等教育機関進学率が上昇した。タイパ島とコタイ地区の開発が進んだのは、各カジノが競争のために再投資を繰り返したからだ。インフラの発展にもつながり、マカオ半島とタイパ島を結ぶ海上橋は元々1本しかなかったが、現在は4本になり、軽量軌道交通(LRT)もできた。 マカオの返還に当たり、一番大事なのは人材だった。「一国二制度」が導入されても、マカオ人に自らマカオ特別行政区を管理する実力がなければ成立しないからだ。私が教育状況を知るために1997年にアンケートを実施した際、高等教育機関卒は10%以下だった。中学校(日本の中学・高校に相当)卒が30%、残りは小学校卒だった。しかし、今は90%以上が高等教育機関に進学している。これは2007年に当時の政府が幼稚園から中学校までの15年の教育を無料化したこと、家庭の経済状況が改善したことが背景にある。本人が勉強したければ、進学できるようになった。 発展の成果は、社会福祉を通じて市民と共有されている。その一つが08年から続いている1万マカオパタカ(約19万円)の現金(定額給付金)給付だ。さらに、65歳以上の医療費は全額無料となっている。カジノの税収や観光客の増加で政府の財政状況が大きく改善された上で、教育、医療、福祉で市民にうまく分配をしてきたので、市民は返還後、マカオの経済成長を感じながら、自分の生活も改善されたと実感している。一方で、中国中央のサポートがなければここまで発展できなかったとも認識している。 マカオの知名度が上がったことも大きな変化だ。特に年配の人が強く感じていることで、昔は中国本土や海外で「どこから来たか」と聞かれて「マカオからだ」と言っても誰も知らなかった。今はどこに行っても「マカオの返還後の経済発展はすごいですね」「毎年1万パタカがもらえるんでしょう」などと言われる。これは誰も想像できなかった変化で、一番の自慢だ。 ――11年に澳門日本商会を立ち上げた。 マカオには1970~80年代から日本人観光客がよく訪れていて、交流関係はずっとあった。しかし、商売における本土への玄関口としての位置付けだった香港と違い、マカオには日系企業がほとんどなかった。返還後、マカオが発展するためには、アジアに積極的に投資している日本に関与する必要があると考えた。 最初は日系企業だけの商工会議所を作ろうと思ったが、当時はせいぜい20~30社しかなかった。このため、100%日系企業でなくても参加できる形で、澳門日本商会を立ち上げた。日本車メーカーの販売代理など、日本関連のビジネスを手がけるマカオ地場企業も入れるようにした。現在の参加企業は約80社に上る。 商会の一番の利点は、政府への提言がしやすくなることだ。例えば日系企業に影響する法律の改正などがあった際に、一企業からよりも商会の立場から意見を伝えた方が政府も対応しやすい。また、日系企業が進出する際にもさまざまなサポートを提供できる。 ここ最近はマカオから日本に投資したいという相談も出てきた。投資先の業界に詳しい弁護士や会計士を紹介してほしいという依頼などがあり、会員をつないで投資が実現したケースもある。 ――広東省珠海に位置するマカオと珠海の協力特区「横琴粤澳深度合作区」(横琴協力区)が注目されている。日系企業の活躍の場はあるか。 横琴でスタートアップを経営する若い会員が、日系企業と手を組みたがっている。彼らは中国の消費トレンドの変化を理解しており、パートナーとして役立てる。特に日本の中小企業にとっては、本土の大きなマーケットは魅力的なはず。政府ではこういった細かい対応は難しいが、われわれの商会ではマッチングが可能だ。 マカオ政府が経済多角化のためにカジノ以外に発展させようとしている◇中国医薬・ヘルスケア◇現代金融◇ハイテク・産業高度化◇コンベンション・商業・貿易・文化・スポーツ――の4大重点産業で、日系企業は高い技術や経験を持っており、活躍が期待されている。 マカオ単体ではマーケットが小さく、大きい産業を育成しても意味がないと判断されがちだが、大湾区は約9,000万人の人口を擁する。横琴には中央政府のサポートがあり、広東省との関係もある。日本の中小企業がマカオをうまく使えれば、非常におもしろいと思う。 横琴協力区は立ち上げから3年を迎えた。マカオと横琴の間に「一線」、横琴と横琴以外の本土との間に「二線」と2本の境界線を引いて通関を管理する「分線管理」、マカオと広東省が共同で協議、建設、管理、共有する「共商共建共管共享(四共)」といった前例のない新しい仕組みが導入されている。当初は通関や政策実施において課題があったが、最近では制度の調整が進み、改善が見られる。現在、市場はまだ本格的に形成されていないが、今後2~3年の間に大きく変わっていくのではないか。 ――マカオが今後直面していく課題は。 世界的な景気後退や保護貿易主義の台頭により、外需が低下し、経済成長や雇用に影響を与えるなど、世界経済の変動には留意する必要がある。国際的な政治情勢、自然災害などによる観光市場の不安定性、住宅ローンや資本の流動性、金融詐欺など金融市場のリスクもある。加えて、中小・零細企業の回復が期待を下回る状況や、貸し付けの不良債権問題が発生するなど社会の深層的な問題にも注意しなければならない。 マカオが外向型の小規模経済体としてさらなる発展を目指すには、これらのリスクを防止し、解決することが重要だ。世界経済動向のモニタリング強化、観光の質とサービスレベルを引き上げることによるリスク耐性の向上、金融監督とリスク評価の徹底、中小・零細企業に対する包括的な解決策の実施などの対策が考えられる。しかし、マカオの未来には試練よりも多くのチャンスがあると信じている。 ――20日に岑浩輝・新行政長官が就任する。何が期待できるか。 行政の高効率化を期待している。今はインターネットの時代で、さまざまな対応に速さが求められる。岑氏はマカオ終審法院(最高裁)院長(長官)として25年の経験がある。法律の専門知識を使って、素早く判断し、政府高官や公務員を1つのチームとして効率を改善することができれば、これからの5年間が変わってくると思う。マカオに企業を誘致したり、大湾区と協力したりする際にも役立つはずだ。 岑氏は今後も一国二制度に基づき、観光やカジノ関連の投資を引き続き誘致するだけでなく、世界的な観光・レジャーの中心地としてのマカオの地位を強化し、4大重点産業を発展させ、経済多元化を推進していく。開放的な政策理念を通じてマカオのビジネス環境をさらに競争力のあるものにし、日本を含む国際的なパートナーとの協力にさらに広い可能性をもたらすだろう。(聞き手=菅原真央) <プロフィル> 蕭志偉さん 1958年生まれ。81~85年に慶応義塾大学へ留学。建設・エンジニアリングコンサルタントの盛世集団控股(CESLアジア)共同会長など実業家として活躍すると同時に、2009~17年の2期にわたりマカオ立法会(議会)議員を務めた。11年に澳門日本商会を設立し、理事長に就任。18年から中国全国人民代表大会(全人代、国会に相当)マカオ地区代表。マカオ中華総商会副理事長、マカオ輸出入商会理事長、マカオ発展戦略研究センター会長のほか、24年から中国北京の北方工業大学文法学院で非常勤講師も務めている。