「自分が物語作る訳でない」京都文学賞の書店主 執筆の極意は「頭の中の人物が自由に動くの書く」
2022年、第3回京都文学賞一般部門で優秀賞を受賞。今年の11月下旬に受賞作「十七回目の世界」を出版した。折小野和広さん(49)は「頭の中に登場人物がいて、自由に動き回るのを書いている。自分が物語を作っている訳ではないんです」と目を細めた。まちの片隅にある小さな書店のカウンターに座りながら、次回作の構想を練っている。 本業は書店店主。23年、住宅街の一角にある毛糸店「Puolukka Mill(プオルッカミル)」(京都府大山崎町大山崎)の1階に「本屋」を開業した。厳選された小説やエッセー、流行を取り入れた作品が所狭しと並んでいる。 仕事のかたわら、小説を執筆してきた。「十七回目の世界」を書くきっかけとなったのは14年に制作した自主映画だった。大山崎町の景観を映像に残そうと、同町を舞台にしたSF作品を作った。 撮影時にエキストラが不足していた関係で、他の役で出演していた演者を別のシーンで起用したところ「同じ人が2人いる」状態になった。「この光景がずっと心に残っていた。『これを書かなければならない』と思った」と当時を振り返る。 小説は、原因不明の揺れの影響で人々が閉じ込められてしまった大山崎町の謎を精神科医の主人公が解いていくというストーリー。謎を解く鍵となるのは主人公の双子の弟だという。JR山崎駅を中心に大山崎町全体が舞台となっている。こだわりは「誰でも読むことができるように固有名詞はできるだけ使っていない。だが、大山崎町を知っている人ならどこのことか分かる表現」。受賞をしてから何度も修正を重ね、ようやく形になった。 小説は伝えたいことよりも好奇心。物語の登場人物に付き従って書いているという。「今は、海辺を歩く人のイメージが頭に浮かんでいる。場所はイギリスかな。この人がどんな人なのか知りたい」と新しい世界の1ページを描き始めている。