安倍政権下の政治報道にみるメディアの問題点とは? 政治学者・中野晃一【インタビューPart 4】
※この動画と記事は、以下のインタビュー記事の一部分をピックアップしたダイジェスト版です。 安倍改造内閣「支持」の背景は? 政治学者・中野晃一教授はどうみる?【フル動画&全文】 安倍改造内閣「支持」の背景は? 政治学者・中野晃一教授はどうみる?【フル動画&全文】
安倍晋三首相は3日、内閣改造を実施し、第2次安倍内閣が発足した。メディアは、女性閣僚を5人に増やしたことについて「女性の登用を前面に打ち出した」と大きく報じた。これに対し、政治学者の中野晃一教授は「女性ではあるけれども、極めて保守的であるということが任命の要。そこに触れた新聞は、あまり多くはない」と指摘する。海外のメディアにコメントを求められることも多い中野教授が、「安倍政権とメディア」について語る。 ――今回の内閣改造や、政権についてのメディアの報道についてはどうか。 中野:もちろん会社にもよりますが、政治部のようなところは、従来であれば自民党が万年与党だったわけですから、自民党の派閥の領袖であるとか、黒幕のような人に近い人間が出世をして、「大政治記者」になって、その会社の論調を決めることがありました。そんなことが相変わらず続いている部分はあると思います。 政権との近さを踏まえてみてみると、典型的な例で言うとNHKの経営委員に、百田尚樹さんが任命されたときに、朝日新聞も含めて多くのメディアが百田さんを「ベストセラー作家」という紹介をしたわけですね。これは海外ではちょっと考えにくい。安倍さんが百田さんを任命したのは、ベストセラー作家だったから、あるいは、それ「だけ」ではなくて、むしろ百田さんの政治信条や歴史認識が安倍さんに似通っているからなのです。 その点に関してはほぼ触れず、人気のある小説を書いたとか、放送作家であるということで紹介するというのは、やはりミスリーディングですね。今回の女性閣僚の人事に関しても、女性であるとか、女性の政治参加に関心が強いとか、抽象的に女性政策に詳しいというような表現をすると、それはいいことだというふうに当然思うわけですね。 ただ、実際に見てみると、例えばジェンダー平等ということに対して非常に反対してきた人や、夫婦別姓であるとか、グローバルスタンダードになっている取り組みに関しても頭から否定するような人たちが少なからずいると。女性であるはけれども、極めて保守的であるということが任命の要だったわけです。自民党の中でさえ、もう少しリベラルな、進歩的な男女共同参画の在り方を思い描いている政治家がいるわけですが、そういう人たちを飛ばして、無名な人も含めて今回の人選を行った。そこにやはり安倍さんの狙いがあると言えますが、そこに触れた新聞は、あまり多くはないですね。すると、情報の受け手は、「女性が5人も入閣したのはいいことではないか」と素朴に受け止めます。これは、ある種、メディアの情報操作というか、きちんと有権者の知る権利を満たしていないという歯がゆさがある。その点、フィナンシャル・タイムズのような、政治性がそんなに強いというよりかは経済至上主義的な海外の新聞であるにも関わらず、そちらのほうが、むしろ鋭い質問をするということは、日本のメディアにとって正直、恥ずべきことなんじゃないかと思います。 ――安倍政権のメディア戦略が長けているということか。 中野:安倍さんは、これまでにも、福島の東電の原発事故の汚染水に関しても「アンダーコントロール」と言ってみたりとか、消えた年金記録についても、「最後の1つまで見つける」、ということを言ったわけですけれども、その後どうなったのか。そういう花火を打ち上げる、メディアの操作をすることについては、師匠である小泉さんからブレーンを引き継いでいることもあり、かなり長けている。そして、メディアも一緒になって、「踊りを踊る」。これが日本の今の状況です。 ですので、5人の女性閣僚を登用したのは、もちろんいいことですが、その中身はどうなのか。そして、もっと大事な問題は、これを続けられるのか、ということです。小泉さんが最初に組閣したとき、2001年だったと思うんですが、田中真紀子さんが外務大臣になったほか、4人、閣僚を女性から登用しました。その後、田中真紀子さんは、更迭され、小泉さんが退任するまでには女性閣僚は元の2人に戻り、期待外れに終わった。 安倍さんも今回、同じような運命をたどる可能性が高い。その理由は、女性閣僚を維持できるだけの女性議員数というのを自民党は持っていないわけですね。特に日本の政治システムでは、民主党がそれを痛感したように、ある程度当選回数を重ねて国会議員としての経歴がないと官僚が政治家をバカにする。ほかの政治家も(女性を)認めない。そんななかで、仮に女性議員が、市民社会で多様な経験を積んでいたとしても、国政の経験が浅い人というのは閣僚として仕事ができないという、大きな難しい問題があるんです。当選回数は、衆議院では5回ぐらいないと据わりが悪い。男性議員で5回以上当選している人はたくさんいるので、ジェラシーもすごい。小泉さんがやったように、民間から登用しようとしても、国会議員で俺は選挙を勝ち抜いてきているのに、なぜ外から入ってくるんだと、反発がある。さらに民間から登用された閣僚は、最初は政治力が伴わない場合も少なくない。こうした客観的な状況を見た場合、5人の女性閣僚を維持できるような条件が整っているとは到底見えない。ましてや、自民党の側で女性議員を増やすという取り組みは、今のところは、議論さえほとんど始まっていない。今回は、トップの部分だけを変えた。そんな自民党で、閣僚の3割、5人も女性を登用し続けるのは、やはり無理ということになる。 ――日本の政治報道は、政権にどのように向き合っているのか。 中野:基本的なジャーナリストとしての職業倫理がどれだけ浸透しているのか問われる。アメリカの場合も、最近では共和党政権は特にそうだが、メディアにずいぶん「手を入れてくる」ので、同じような問題を抱えてはいる。しかし、伝統的にアメリカのジャーナリズムは、権力を監視する役割を担っている。覚悟を決め、権力側とのコンタクトに関してはかなり慎重に、批判的に対応することが前提としてある。 ところが、アメリカでも変わりつつありますが、日本の場合にはそういったような前提がそもそも弱い。極論すれば、朝日新聞も含めて、日本の大新聞は、明治にさかのぼれば、国家側から陰日なたに支援を受けてきた過去がある。読売新聞に限らず、そうした癒着からそもそも育ってきているので、アメリカなど西洋で見られるような対決型、監視型のメディアはそもそも歴史的に育っていない。そして、ここ最近のアメリカや日本では、一部の保守系のメディアが極めて直接的に政争に加わる状況にある。アメリカで言えば、FOXやマードックの帝国がそうです。はたして、本当に客観報道なのか、政治的な立ち位置を明らかにするにしても、明らかに一線を越えているのではないかという振る舞いがある。同じことが、日本でも、特に自民党政権を強烈に支持している産経グループや読売グループに少し見られる傾向だと思います。 それに引き換え、朝日や毎日は、ややおっとりしていて、旧態依然のアプローチをしているようなところがある。政党システムのバランスが壊れてしまっているのと同じような具合に、メディア状況においても、マスメディアを見る限り、ややバランスを欠いた状況になっているのではないかと思います。 ――特に安倍政権のもとで、新聞の論調が賛成と反対に大きく分断されるようになったという指摘もあります。 中野:安倍政権が民主党政権の崩壊のあとに生まれた政権だということが重要です。ここ20年間の間、万年与党であった自民党がその地位を失って、政治改革の流れから政党間競争が激化した。やがて、民主党に野党勢力が収斂して、ついに2009年に政権交代を起こした。その間、13年、16年とかかった状況が全体として見ると失敗に終わった。そこからどう立ち直るのかもわからない。そこで安倍さんが政権に返り咲いたのです。安倍さん個人の資質もさることながら、「裸の王様」と言ったら酷かもしれませんが、こうした外的な条件が、安倍さんが国内で無敵な状況を作り上げたのだと思います。 保守系のメディアはこの時とばかりに安倍さんをもり立て、かなりゆがんだ報道を行う。その一方で、本来であれば国家権力をチェックするはずであったメディアの側は、しばらく安倍さん以外に何もないじゃないか、と考える。自分たちが、ある程度、親近性を持ってやってきた民主党があのような形で終わり、現状ではそれに代わる勢力が見えない、と落ち込み、自信喪失をしている。その結果、現在のような危機的な状況が生じているのだと思います。