【今月おすすめの本】窪 美澄『ぼくは青くて透明で』他3編
【Culture Navi】BOOKS:今月の注目情報をお届け!
Navigator ●石井絵里さん 本誌をはじめ、各女性向け媒体でカルチャー記事を担当。趣味は喫茶店と日本各地の遺跡を巡ること。
『ぼくは青くて透明で』 窪 美澄 ¥1760/文藝春秋
▶両思いの男子二人が教えてくれる、人それぞれの成長の仕方。 家族や周りの人たちとのつながりを、鋭く掘り下げた作風に定評がある窪美澄さん。最新小説も、思春期の少年たちが成長する姿を追いながら、独自の人間関係の作り方を見せてくれる。主人公の羽田海(かい)は、血がつながらない母親・美佐子と二人暮らしの高校2年生。実の父親は、海と美佐子を置いて家を出ていった。コロナ禍で美佐子の勤め先が倒産し、海は新しい街へ引っ越すことに。転校先のクラスにいたのは優等生の男子・忍と、いじめられている女子・璃子。海はいじめを助けたのがきっかけで、璃子と仲よくなる。人気者の忍とは日々接するうちに、次第に彼が気になるように。忍も海に好意を抱く。オープンにしづらい両思いの男子二人を、璃子は見守る。 同性愛者の自分を肯定し、将来の夢に向かって没頭する海と、名家に生まれ、親の跡継ぎを期待されて育った忍の間には、両思い同士といえども、背負っているものに大きな違いが。カップルの間に現れる課題は、私たちに「普通って何?」という問いを投げかけてくれる。また男子たちを見守る、璃子の存在も興味深い。BL作品が大好きで、リアルな恋愛はもちろん、人付き合い自体が苦手な彼女だったけど、海と忍を理解するうちに、2次元と3次元の恋は違うこと、そして璃子なりの人との距離感の保ち方を学ぶように。3人は同い年だけど、成長の速度や方向性はまったく違う。 「性的指好が一緒だから」「家族だから」「同僚だから」。人は、同じコミュニティにいる相手を自分と同一視しがちだし、その中に、自分とは違う価値観を持つ相手を見つけると、不安や驚きを抱くもの。同時に、コミュニティのルールになじめなかった場合は、必要以上に劣等感や疎外感を味わいがち。でも本著を読んでいると「誰一人として、同じ人間なんていないんだ」と、ラクな気持ちになれる。そして家族や友人に対しても、違いを尊重しようという新たな希望が。誰かが決めた“普通”にとらわれそうになったら、ぜひページを開いて!