ダルビッシュ復活の裏に虎の穴の秘密兵器
「ドライブラインでしたっけ? 使ってみましたよ」 今から1ヶ月ほど前のことになるが、右肩の違和感で故障者リストに入っていたダルビッシュ有がシカゴ、リグレー・フィールドで行われたカブス戦で復帰。帰り際、クラブハウスに通じる細い通路ですれ違うと、そう言った。 話そのものは、さらに1ヶ月ほど遡る。 6月に入って、米全国紙「USA TODAY」 がシアトル郊外にあるケントという街にある「ドライブライン」というトレーニング施設の特集をした。同施設では、球速を上げることに特化し、同時に故障をしない投げ方を教えるという触れ込みで、ドラフト前の高校生、大学生に指導を行っており、トレバー・バウアー( インディアンズ)、ジョー・ベイメル(マリナーズなど)といった大リーガーもオフになると訪れる。 6月10日、その記事に関して、 シアトルを訪れていたダルビッシュに意見を求めたわけだが、 記事に添えられていた同施設のトレーニング用ボールの写真を見るなり、「これ、聞いたことがあります」と言いながら、早速スマートフォンでドライブラインのホームページを検索。 トレーニング用のボールを発見すると、購入を決めた。 さてあのとき、トミー・ジョン手術(副則靭帯再建術) から復帰したものの、ダルビッシュは右肩に違和感を抱えていた。発症したのはその2日前。復帰3戦目の登板中のことである。その時点では13日に先発することが決まっていたが、翌日の試合中に次回の先発回避が決まり、ダラスに戻って精密検査を受けると、故障者リストに入ることが決まった。ただ、精密検査では異常がなかったことから、ダルビッシュはすぐにセントルイス遠征中のチームに合流し、そこでゆっくりキャッチボールを再開したわけだが、そのときに使用したのが、すでに届いていたドライブラインのボールだったという。 「ちょっと重いのから。7オンスだったかな。それで普通のボールを投げ始めたとき、重さを感じることなく投げられた」 ダルビッシュが購入したのは、大小、重さが異なる12個のトレー ニング用のボールで、縫い目のあるものとないものがそれぞれ6個ずつ。その中でダルビッシュは、縫い目があって、通常のボールよりも2オンスほど重たいボールでキャッチボールを始めた。 ボールを購入したことにも驚いたが、すぐに使い始めたことにも正直驚いた。いってみれば海のものとも山のものともつかない理論であり、ボールなのである。 また、ダルビッシュレベルになれば、ある程度、自分に適したトレーニング方法を確立しているが、それでも試してみようと、今なお新しい可能性を模索するその姿勢には、さらに一歩、まだまだ、という彼の野球に対する向き合い方が伺える。 そのことに対して、ダルビッシュは淡々と言った。