ダルビッシュ復活の裏に虎の穴の秘密兵器
「(いろいろ試してみて)取り入れるところは、 取り入れてみようと」 ちなみに先月、ロイヤルズを解雇されたベイメルは、今も大リーグ復帰を目指し、ドライブラインでトレーニングを続けている。 これはダルビッシュに教えてもらったことだが、ベイメルはインスタグラムを使って、効果をアピールしている。 確認すると、2008年以降、93マイル(150キロ)を投げられなかったが39歳の彼が、7月7日の試合では、93マイル(150キロ)を2度も投げたと 具体的な球速の変遷とともに紹介していた。ベイメルは練習風景もビデオで公開しているが、例えばその一つでは助走をつけて数メートル先のネットに投げつけるということを繰り返している。しかも力いっぱい、目いっぱいーー肩が壊れるのでは、というぐらいに。 これだけを見るとややキワモノに映り、 肩肘の酷使を避ける今の時代の流れとは逆行しているようにも見える。ある選手にドライブラインのことを知っているかと聞くと、 怪訝な顔を向けた。それが答えなのだろう。 ただ、だからといって切り捨てるのではなく、ではなぜ球が速くなっているのか、 あのトレーニングの意図するところは何か、それをダルビッシュは読み取ろうとしている。 ひょっとしたら時代の流れに反する中にも参考になるものがあるかもしれない。いや、ない確率の方が高いが、ときに無駄も必要。ダルビッシュにはともかく、まずは試してみよう、という柔軟性がある。 もちろん、取り入れるものは新しいことだけに限らない。新旧折衷。かつて試したことにヒントがあることもある。 ダルビッシュは6月8日の登板で右肩に違和感を感じ、7月16日に復帰するまで1ヶ月以上あったが、そのリハビリの過程では、 肩、腕のトレーニングでよく用いられるチューブではなく、 高校時代からプロの1年目ぐらいまで肩が痛かった時に試し、効果があったダンベルを使ってみたところ違和感が消えたそうだ。 さて、シカゴでの復帰翌日の朝、そんな話を狭いリグレー・フィールドのビジタークラブハウスで聞いていたわけだが、 彼のバッグの中から見えていた本が気になって聞くと、「 これですか?」と言いながら渡されたのが、「入門運動生理学」という本だった。 「読みます? トイレいってくるんで、読んでていいですよ」 パラパラとページをめくったが、内容はといえば、 筋繊維の話であったり、神経の話であったり、 入門とは謳っていたが、馴染みのない語句が並んでいた。 トミー・ジョン手術のリハビリ中、栄養について、あるいは体について「勉強する機会が増えた」とダルビッシュは話していたが、書き込みやアンダーラインが引かれた本を見て、その一端が伺えた。 経験、柔軟な発想、そして知識の裏付け。ダルビッシュは今、飽くなき探求の中で日常を送る。 (文責・丹羽政善/米国在住スポーツライター)