【新型車デザイン探訪】ヒョンデ・コナはデザインも開発手法もチャレンジだった!大胆な“顔”となった理由をデザイン責任者に聞いた
デジタル活用で開発手法も革新
前述のように先代コナにもICEとBEVがあったが、ヒョンデは新型を「BEV優先」で開発したと表明。エレクトリックへの本気度を強調している。 とはいえICEがある限り、エンジンを搭載するスペースを確保しなくてはいけない。BEV専用車のアイオニック5よりパッケージングの条件がより複雑で、より難しかったのではないかと想像できるのだが・・。 「チャレンジだったよ。BEVとICEを両立できるパッケージングとエンジニアリングが必要だった。デザインテーマはBEVで始めたけれど、それがICEでも成り立つのか?」とサイモン。そしてこう続けた。 「主な違いは冷却に必要なスペースだ。開発を進めるなか、ICEの冷却性能が課題に浮上した。最も難しかったのはフロントエンドのパッケージングだが、それは全体のプロポーションにも影響する」 ICEではグリルから入った風がラジエーターを通り、エンジンルームを換気して床下などへ出ていく。ラジエーターの搭載スペースに加えて、エンジンの周囲に換気のための空間を確保しなくてはいけない。 それに対してエレクトリックで大事なのはバッテリーを冷却するための通風だ。当然ながら大きなラジエーターが存在しない反面、初代と同様にノーズに置いた充電口がフロントオーバーハングを延ばす要素になる。 それらを勘案して、最適なパッケージングとプロポーションをどうやって導き出すか? サイモンがこんな秘話を披露してくれた。 「7案のプロポーションモデルをデジタルで作成し、議論した。VRルームで合計20人がワイヤレスのVRゴーグルをかけて、同時に7案を原寸大で比較検討する。そうやって、どれが『BEV優先』に感じられるプロポーションかを選んだ。それを量産化できたのは、エンジニアとパッケージングチームが素晴らしい仕事をしてくれたおかげだ」 リヤにもサイモンのこだわりがある。フロントと同様に、”シームレスホライゾンランプ”のテールランプを配置。それを際立たせるため、その周囲の断面の美しさを追求したという。 「我々は韓国、ドイツ、カリフォルニアにデザイン拠点を持っている。例えばカリフォルニアのスタジオで修正案のデジタルデータを作り、そのデータでクレイモデルを切削する。その日の仕事が終わるときにクレイモデルを計測したデータを韓国のスタジオに送ると、韓国でそれをクレイモデルに再現し、修正し、そのデータを今度はドイツに送る」とサイモン。「こうして誰も残業することなく、毎日24時間、作業が続いていったのだ」。 「ひとつのテーマに沿ってデータをやり取りしながら3つのスタジオが協業して、リヤ回りの美しい断面を生み出すことができた。。そこにあったのは、3つのスタジオのデザイナーが同じ廊下を歩いていくような環境だ。同じ廊下でトライとリファインを繰り返して、最終案に辿り着いた。コロナ禍で移動が制限されていたから、このやり方を考えたのだが、とてもエキサイティングだったよ」 プロポーションの吟味にVRを活用し、デジタルデータを介した3拠点の協業で造形的な完成度を追求。こうして開発手法の革新にもチャレンジしながら、新型コナのデザインが生み出された。それをサイモンは「エキサイティングだった」と振り返る。 大胆な顔付きも含めて、デザイナーは新たなチャレンジをいとわず、むしろそれを楽しんだ。作り手がワクワクしながらデザインしたものは、きっと見る人の気持ちもワクワクさせるはず。コナ・エレクトリックはその好例と言えるかもしれない。
千葉 匠