岡田阪神 今季初勝利に透けた去年の野球 ミスを隠した森下の決勝弾 2死から四球を選んだ木浪の働き
「巨人0-5阪神」(31日、東京ドーム) 椅子から腰を浮かせて立ち上がった阪神・岡田監督が、両腕をV字に広げた。開幕戦からの連続無得点イニングを25で止め、均衡を破った八回の森下の先制3ラン。過去2戦では見られなかったスマイルがはじけた。 勝利には、ミスの大きさ、印象度を薄め、前向きに反省できる付加価値がある。八回、1死から代打・小野寺が右前打を放ち、岡田監督は代走・小幡を告げた。続く近本が左翼に放ったライナー。一度は前進してノーバウンド捕球をうかがった左翼・丸が諦め、最後はバックステップを踏んでワンバウンドした打球を捕った。 だが、小幡は二塁を少し回ったところで加速を緩め、三塁に進むことができなかった。一塁走者の角度からすれば、打球の勢い、落下地点を判断するのはさほど難しくなかったはず。左翼から三塁への送球距離は近いが、捕球時の丸の重心は瞬時の送球が難しい後ろにかかっていた。小幡の脚力からすれば三塁を奪えたはずで、岡田監督も左翼方向を見つめながら、ベンチで苦笑いを浮かべていた。 開幕から2試合連続完封負けを喫し、この日も七回まで無得点。やたらホームベースが遠かった。打てないことがクローズアップされたが、打てなければ違うアプローチで得点につなげる方法がある。犠打やセーフティーバント、右打ちといった打撃であり、相手の隙を突く走塁でもある。小幡は2戦目に左前打を放った原口の代走で今季初出場し、遊撃の守備にも就いていたが、連敗中という事実が、昨年は当たり前のようにできていたプレーを難しくさせる心理的要因になっていたのかもしれない。 1死一、二塁と一、三塁では、打者が追う重圧度が異なる。一、三塁になっていれば、巨人内野陣が通常シフトを敷く中で二ゴロに倒れた次打者・中野の打席内での意識も違ったものになっていたはずだ。そんな全ての経過を消し去った森下の決勝弾は、とてつもなく大きかった。 三回無死一塁で、小飛球になった高橋礼の犠打をノーバウンドで捕球した才木には頭脳プレーで併殺にしてほしかったし、最悪でも一塁走者を俊足の吉川から投手の高橋礼にスイッチすべきだった。併殺を完成させていれば満塁まで広がったピンチを招く可能性は低かったかもしれない。ただ、この場面で岡本和を空振り三振に仕留めた投球は素晴らしかった。 六回2死一、三塁では、一、二塁間を襲った代打・梶谷の打球をバックハンドキャッチでさばいた大山の好守が光った。初戦では右翼・梶谷が森下の打球を好捕し、自身の2ランにつなげた。2戦目でも岡本和が小飛球になった坂本のセーフティースクイズをダイビングキャッチした後、先制2ランを放った。巨人の流れを断った大山の守備が森下の千金弾を呼び、今季初勝利につながった。 五回2死無走者から今季初四球を選び、才木につなげた木浪の働きも大きい。初戦では2度、この日も二回2死一塁で右飛に倒れるなど、木浪でイニングが終わり、次の回の先頭打者が投手から始まるケースが3度あった。攻撃にリズムを呼び、恐怖の8番打者と称された昨年に似た動きだった。 3点リードの八回1死一、二塁の守備で、一、二塁間に飛んだ丸の打球を捕球後、素早い反転で一塁走者の大城卓を二塁で封殺した中野のプレーも見逃せない。来日初登板のゲラ。単打でも1点差に迫られる可能性のある局面を作らなかった見事な動きと判断だった。 九回1死三塁では、投手の足元を襲い、中前に抜けそうな打球を二塁・吉川の好守に阻まれる形となったが、きっちり三塁走者を生還させた代打・糸原の今季初打点。また、抜群のスタートで本塁を奪った代走・植田。この4点目はただの1点ではなく、巨人の反撃意欲をそぐ価値を伴った。 そして小幡。九回の今季初打席で右翼席へ1号ソロ。八回に躊躇した走塁を引きずらず、勝利を決定づけた。昨年は開幕から6試合連続でスタメンを張り、打率・278と一定の数字を残す中で、木浪に遊撃の定位置を奪われた。逆の立場となった男の意地と見る。 岡田監督は「開幕3連敗と1勝2敗じゃね。1勝2敗は1つしか負け越しがないので、今日の勝ちは本当に大きかったと思う」と安堵の表情をこぼした。今季初勝利に透けて見えた昨年の野球。試合を重ねていくたび、少しずつ、着実に、王者のスタイルを思い出していくだろう。(デイリースポーツ・鈴木健一)