ロシアと北朝鮮が「接近」その思惑は? バランス外交を展開するロシア
北朝鮮の「誘い」にロシアが応じる理由
では、ロシアはなぜ北朝鮮の誘いに応じるのでしょうか。ロシアは、いろいろなカードを集めては、それで自分の外交を有利に進めることに長けた国です。北朝鮮との関係を進めておけば、例えば中国との外交で使うことができます。中国が北朝鮮に対して何かやろうとすると、ロシアに邪魔されないよう気を付けないといけない、そのためにはロシアに一つ、二つ何か好いことをしてみせなければならない、という状況を作りだせるからです。 中ロは提携して、米国の圧力に対抗していますが、足元の中央アジアなどでは隠微な勢力争いを続けています。19世紀の欧州で繰り広げられていたバランス外交、合従連衡の外交を、ロシアは今でも展開しているのです。
中東諸国と緊密な関係を築く思惑
ロシアは中東でもバランス外交を繰り広げています。ロシアの国境は長大で、そこには多数の国があります。ロシアにとっては、その一つひとつがある時は脅威に、またある時は外交上のカードになるのです。例えばロシアは8月、イランと5年間の協力に合意して、石油ガス開発や発電で協力する代わりに年間23.5億ドル分の原油を得る権利を得ましたが、これにはイランとの関係を増進するだけでなく、イラン原油が世界市場にあふれて原油価格を引き下げてしまうのを防ぐという、深謀遠慮もあるようです。 イランだけではありません。ロシアはシリアはもちろん、イラク、サウジ、エジプト、イスラエル、トルコなど、中近東諸国とは様々の利権で結ばれた緊密な関係を築いています。これらを操ることで、米国に嫌がらせをすることもできるし、逆に米国を助けて得点を稼ぐこともできるのです。ロシアは、主義主張よりバランスと利益を重んじますから、中近東の問題をダシに対米関係を大きく好転させることもあり得ます。 ロシアは中国のような小切手外交の大盤振る舞いはできませんが、腐っても鯛、老いたりとは言えラヴロフ外相ら、旧ソ連時代からの外交官は19世紀型バランス外交のDNAを確固として保持しており、小さな費用で中国以上の存在感を発揮しているのです。 (河東哲夫/Japan and World Trends代表)