ロシアと北朝鮮が「接近」その思惑は? バランス外交を展開するロシア
10月初めに北朝鮮の李外相がロシアを訪問し、ラブロフ外相と会談しました。両国が接近しているとの見方がありますが、ロシアと北朝鮮のこうした動きの背景にあるものは何でしょうか。ロシアは外交の比重を「西」ではなく「東」にシフトしたのでしょうか。
北朝鮮がロシアに近づく狙いは?
金正日総書記時代末期の北朝鮮は、経済的に成長著しい中国との関係を外交の軸にしていました。ところが息子の金正恩になりますと、中国との関係の窓口になっていた叔父の張成沢と対立するに至り、中国に渡していた鉱山開発利権等を取り戻すとともに、張成沢を処刑してしまいます。おそらく、中国が保護している彼の異母兄、金正男を、張がひそかに助けていると思ったのでしょう。 中国との関係がこの様なので、金正恩総書記は自分の外交の足場がない状況です。2011年、権力を引き継いで既に3年にもなるのに、中国への顔見世訪問さえできていません。仕方なく拉致問題解決の構えを見せて日本を引き込むという奇手を見せましたが、安倍総理はその餌に食いついていません。北朝鮮にとって残るは、ウクライナ問題で孤立してアジアに活路を見出そうとしているロシアだけだったというわけです。ロシアは中国ほど豊かではありませんが、石油くらいは融通してくれるでしょうし、何よりも中国や米国が北朝鮮を脅かすのを牽制する一助になるでしょう。
ロシアは「アジア・シフト」に本腰?
ロシアは今後、本格的にアジアに乗り出してくるのでしょうか。それについては、大したことは起きないでしょう。ロシアはいつも、欧米との関係が悪化すると、「アジア重視」を唱え始めるのです。アジアに行ってしまうぞと脅かせば、欧米諸国はロシアとの経済関係をアジアに独占されるのを恐れて、ロシアに譲歩してくる――というのが、ロシアの魂胆なのでしょう。 しかしこれは、ロシア人の誤算なのです。ロシアの極東地方の人口は650万人程しかおらず、工業も未発達であるため、エネルギー資源を輸出する以外にはアジアの気を引く術はないのです。EUが高い値段で大量の原油・天然ガスを輸入してくれるのに――対ロ制裁の対象になっていません――パイプラインをアジアに向けて建設・増設し、そのあげく買いたたかれるような愚を、ロシアはみすみす冒すのでしょうか。 今回の対ロ制裁でロシアに最も効いているもの、それはおそらく石油・ガス掘削技術の供与の禁止、そして欧米資本市場の利用制限でしょう。天然資源の輸出に国家歳入の60%を依存していながら、既存の油田、ガス田の生産が頭打ちになっているロシアにとって、深部のシェール・オイル・ガス、そして北極海の海底資源の開発が急務になっているのですが、その技術をロシアは持っていません。またロシアの銀行・企業はこれまで、金利の高いロシアよりも、EUの資本市場で資金を手当してきたのですが、制裁で30日以上の融資は得られないようになってしまいました。 ところがこの2つとも、ロシアはアジアで手に入れることができません。日本でさえ、石油・天然ガスの掘削技術は劣っていますし、アジアの資本市場でロシア企業の株や社債を大量に消化することはできないでしょう。