オーケストラ指揮者の時給800円に当事者「無の境地」 相場を作るのもプロの仕事?価値と報酬の関係は
■フリーランスの値段交渉「得意な人であればいいが、なかなか言い出せない」
今年度の最低賃金は、全国平均1055円で、過去最大の51円アップとなった。東京は1163円で、50円アップとなっている。しかし最低賃金の適用は、事業者に雇われている雇用者(パート・バイト等も含む)に限られ、フリーランス等は適用外だ。 林さんは以前、基本的に「先方の言い値」で受託していたが、準備学習等で割に合わないケースが多数起きた。そのため現在は、依頼があれば条件を提示する。1公演あたりリハーサルと本番で最低15万円、アマチュア等からの依頼は1時間1万円からに設定している。 音楽業界では、一般的に「ある程度の地位になると、音楽事務所に所属して、マネージャーが条件を提示する」。そこで価格交渉が行われるが、林さんのようなフリーランスの場合は、「得意な人であればいいが、僕はなかなか言い出せない」という。 作家でジャーナリストの佐々木俊尚氏は、「自治体に準ずる公的な法人では、役所内のロジックで金額が決まっていて、交渉しようがないことが多々ある」と指摘し、「有識者会議は、どこでも1回1万8000円。会議は2時間程度だが、僕の知見を考えれば割に合わない。公共工事には数億円かけるが、能力には金を払わないのが日本の伝統だ。ソフト面に予算が下りないことに、日本の病弊がある」と批判した。
■自己研鑽は給与に含めるべき?
11月に施行される「フリーランス新法」では、「取引条件明示」「原則60日以内に報酬支払」「募集情報の的確な表示」「ハラスメント対策」などを義務づけている。また、1カ月以上の仕事の場合には、報酬減額や返品、受領拒否などを禁止している。 とはいえ、どこまでが業務なのかは厳密に定められるものでなく、場合によっては「自己研鑽」や「事前学習」が必要な場合もある。資格取得やオンラインサロン参加、講習会、書籍購読、映画・TV鑑賞、現地視察、勉強会、交流会、取引相手の接待、飲み会などが考えられ、また休日やリモート先での活動や、仕事とプライベートの線引きにも論点がある。