大分“三度目の正直”で校歌 スタンド総立ち「歴史的勝利」 /大分
<センバツ甲子園> ついにつかんだ念願の甲子園初勝利だ。センバツ初出場の大分は、初回に2点を先制して流れをつかむと、バッテリーを中心に守備力の高さを発揮して松山聖陵(愛媛)打線を抑え込み、快勝。春夏通じて3度目の甲子園挑戦で新たな歴史を刻んだ。大分ナイン、応援団の喜びが爆発。初めて響く校歌を笑顔で歌いあげた。【田畠広景、金子昇太】 【熱闘センバツ全31試合の写真特集】 九回表2死一塁。最後の打者の打球が大きく弧を描き、ファウルグラウンドでレフトのグラブに収まると、大分スタンドは一気に総立ち。「記念すべき勝利だ!」「よくやった!」。大歓声の中、「かっこよかったです」。マネジャーの後藤聖華さん(3年)は、目元をタオルでぬぐった。選手たちの努力を知っている涙だった。 勝負を分けたのは初回の攻防だ。 一回表1死。2番打者に安打を許し、いやな雰囲気が漂う。しかし、江川侑斗捕手(3年)は冷静だった。「走ってくると思った」。盗塁を試みた一塁走者を二塁で刺し、好機にさせなかった。「あれで落ち着いた」という長尾凌我投手(同)が後続を抑え、幸先がいいスタートを切った。 その裏。すぐに好機が訪れる。守備のいい流れのまま打席に入った先頭打者の足立駿主将(同)が中前打で出塁。そして1死一、二塁とすると、4番・中尾拓士選手(同)の2点適時二塁打が飛び出した。これには母元子さん(52)は「本番に結果が出てうれしい」と大喜び。応援のボルテージも上がっていった。 その後は互いに走者を出しながらも点が取れない「がまんの展開」。だが、初回を3人で抑えた長尾投手はリズムを崩すことなく、要所を抑え続けた。 打線もそれに応えた。八回表に1点差に詰め寄られたが、その裏にすぐさま奮起。2安打などで2死満塁とし、安藤陽斗選手(同)が2点適時打をライトに放ち、試合を決めた。父優造さん(43)は喜びをかみしめ、こう語った。「打ってくれた瞬間は最高でした。26日は私の誕生日。とてもよいプレゼントをもらいました」 ◇ひょうたんから大勝利 ○…大分の卒業生で北九州市から観戦に来た矢野文人さん(77)は「とにかく勝ってほしい」と応援に駆けつけ、スタンドで初観戦。「縁起が良い」と持参したのは、大分の校章を書き入れた大きなひょうたん。保護者らに応援コメントを書いてもらって、座席に据えると、大きな勝利を呼び込んだ。「とにかく良かった。次も勝ってほしいね」と大きな笑顔を見せた。 ……………………………………………………………………………………………………… ■青春譜 ◇“練習の虫”努力開花 大分・中尾拓士一塁手(3年) 一回裏1死、一、二塁。待っていたストレートではなかったが、体が自然に反応した。インコースのスライダー。打球は快音を残し右中間へ。「よっしゃ!」。チームを勝利に導く先制の2点適時二塁打だ。努力が実った瞬間だった。 野球は兄の影響で小1から始めた。最初は投手だったが、中学生の時、右肘のけがで断念。一塁手となり、打撃センスを磨こうと決意した。目指すは「一発も打て広角に打ち分けられる対応力」を持った阪神タイガースの糸井嘉男選手。インターネットの動画投稿サイトでフォームを見たり、打撃についての本を読んだりと、「徹底的に研究した」。家の和室に自分で作ったホームベース横の「打席」に立ち、自分のスイングを動画に撮ってプロと比較。畳がすり切れるまで努力を重ねた。 昨秋からの新チームで4番を任されると、チームのために「打てるコースに来たら仕留められるスイング速度とパワーを身につけたい」。今冬は1日1000スイングを超える打撃練習や素振りに加え、筋力トレーニングに励んだ。 「まだまだ打ち損じがある。次戦でもチームのためのバッティングを心がけたい」。“練習の虫”は4番の責任を果たし続ける。【田畠広景】