焼き鳥「田ばた本店」29日閉店 金沢・中央通町で愛され68年 店主高齢、跡継ぎ不在
●「かっこよく終わりたい」 犀川のほとりで、地元住民や常連客に長年愛されてきた焼き鳥店が、その歴史に幕を下ろす。屋台から始まって68年、豚バラ、シロなど庶民的なメニューで愛されてきた金沢市中央通町の「田ばた本店」。2代目の田幡明彦さん(68)が高齢と後継者の不在を理由に決断した。最終営業日は29日。田幡さんは「これまで支えてくれたお客さんにありがとうと伝えたい」とカウンターに立ち、閉店を知った人たちで満席が続く店内に香ばしいにおいと焼きたての串を届けている。 【写真】29日に閉店する田ばた=金沢市中央通町 田ばた本店は1956(昭和31)年、田幡さんの父辰男さん(2001年死去)が始めた小さな屋台がルーツだ。持ち込んだテレビを客に見せ、生ビールを提供するなど、当時としては画期的なスタイルで人気になった。 売り上げが伸び、1973年に現在の場所に地上4階のビルを建てて営業を開始。田幡さんは高校在学中から店の手伝いを始め、辰男さんが60代で引退すると、多くの人を引きつけてきた昔ながらの味を守り続けることを意識し、店主として切り盛りしてきた。串焼きと同じくらい、焼きそばにもファンが多いという。 客商売ながら、来てくれた人たちと会話を交わすことは少ない田幡さん。「無愛想で有名や。この人としゃべって、あの人としゃべらんってわけにはいかんやろ」と、これも先代の教えを大切にしてきた証しだとする。 店に立ち続け半世紀。炭火の熱を浴び、串を焼く日々が「だんだんきつくなってきた」と語る。娘2人は結婚して家を出て後継者はいない。1年ほど前から店を畳むことを考えだした。 28日に店を訪れた白山市の会社役員横山貴之さん(46)は月に何度も通ってきたとし「店の雰囲気が好きだったから寂しい」と残念がった。 「田ばた」の赤い看板に明かりがともるのは29日が最後。最終日も予約でいっぱいだ。もう食べにきてもらえないかと思うと、カウンター越しの会話も増えたという田幡さんは「最後まで一生懸命串を焼きたい。元気なうちにかっこよく終わりたい」と話した。