愛犬10年物語(3)2世帯家族を結んだ2匹の犬と猫の物語
これからも犬と共に
「メグが9歳になったばかりの時でした。右後ろ脚に腫瘍が見つかりました。切らないと癌が全身に回ってしまうということで、脱却(足の切断)手術をしました」。3本足となってしまったメグだが、懸命なリハビリの結果、歩いたり排泄をしたりという日常のことはそう時間をかけずにできるようになった。「でも、階段の上り降りはできませんから、家族みんなで朝5時に起きて2階の居室から抱きかかえて下に降り、散歩して帰ってきてまた階段を抱きかかえて上がる、ということを1年間毎日やりました」。メグの頑張る姿を聞きつけたテレビ局が取材を申し込んできたのは、2011年4月に肺がんで亡くなった後のことだった。
「亡くなる時、メグー!メグー!と大声で呼びかける私達と一緒に、キララもワンワン吠えていました。棺に入れた後、大勢の人が弔問に来ましたが、キララはそれを少し離れた所からじっと見守っていました。『死ぬ』ということを理解していたどうかは分かりませんが、きっと寂しかったんだと思います」
そのキララも10歳で亡くなったメグの年齢を超え、この3月で12歳になる。足腰は少し衰えてきたものの、まだまだボールを追って駆け回ったり、相変わらず家族旅行にも行っている。「この子には、メグの時ように色々なものを買ったりはしていません。余計なお金はかけなくなりましたね。時代も変わりましたし、私たちも少しは飼い主として成長したのかな?」と佳織さんは語る。
メグが亡くなった半年後に、同居していたご主人の父が80歳で亡くなった。闘病中のおじいちゃんには、かわいがっていたメグの死はあえて伝えなかったという。僕がポートレートを撮らせてもらった佳織さんの母、みよさんも、8年前に亡くなったご主人を追って昨年2月に亡くなった。今、恒例の家族旅行の参加人数は夫妻と正幸さんの母、キララの4人(3人+1匹。猫の小春は留守番)と往時の8人(6人+2匹)の半分になってしまった。「私たちも55歳と52歳。もう1回くらいパピー(子犬)から犬を飼いたいという気持ちもありますが、次は飼育放棄された成犬を保護したいとも考えています。夫婦水入らずの海外旅行にも憧れますが、きっと犬がいる暮らしが続くんでしょうね」。正幸さんがアルバムから取り出した「最後の8人での家族旅行」の記念写真を見ながら、佳織さんはしみじみと語った。 丹羽さん夫妻の話は、同じような時期に犬を飼い始めたやはり子なしの僕たち夫妻にとって、「あるあるネタ」の連続だった。決して特別でも立派でもない。でも、犬にかける愛情だけは誰にも負けないという自負。そんな等身大の“犬バカ”が、今の日本には何百万人といるはずだ。 【キララ、メグ、小春】キララは、今年3月で12歳になるメスのゴールデン・レトリーバー。 ホルモンバランスを保つ薬とアレルギーの薬を毎日飲んでいるほかは、大きな病気はしていない。穏やかな性格で、いつも先住犬のメグを立てていた。同居猫の小春とは、小春が棚の上のキャットフードを落とし、キララが開封して食べるという連携プレーを見せるほど仲良し。 ---------------------------------------------- ■内村コースケ(うちむら・こうすけ) 1970年生まれ。子供時代をビルマ(現ミャンマー)、カナダ、イギリスで過ごし、早稲田大学第一文学部卒業後、中日新聞(東京新聞)で記者とカメラマンをそれぞれ経験。フリーに転身後、愛犬と共に東京から八ヶ岳山麓に移住。「書けて撮れる」フォトジャーナリストとして、「犬」「田舎暮らし」「帰国子女」などをテーマに活動中