世界王者・宇野昌磨に異変!GPシリーズ中国杯後に「闘争心が薄いかもしれない…」衝撃告白
11月12日に閉幕したフィギュアスケートのグランプリ(GP)シリーズ第4戦・中国杯が、世界選手権2連覇中の王者・宇野昌磨(25・トヨタ自動車)の今季初戦となった。 【写真】闘志に火は点くか…演技後に物憂げな表情を見せる宇野昌磨…… ショートプログラム(SP)で首位に立つも、フリーで4回転ジャンプにミスがあり、新鋭のアダム・シャオ・イム・ファ(22・フランス)に逆転を許して2位。GP10勝目はお預けになったが、試合後のこのコメントからは確かな手ごたえが感じ取れた。 「ショートプログラム(SP)、フリーともにジャンプ以外を頑張ろうとした姿勢っていうのは今回、評価したい。表現はもっと見せられたし、動きの強弱やスピード感も出せたけど、(技術面と表現面)どちらもやろうとした姿勢っていうのは、僕の中では久々の感覚。ここからプログラム自体が良くなっていくなっていうのが確信に変わった試合だった。いつもシーズン通して、だんだんと調子を落としていくので、このままいけば割といいシーズンを送れるんじゃないかな」 昨季の宇野は初制覇したGPファイナルを含むシーズン全勝。締めくくりとなった世界選手権直後に宇野が語ったのは、一回り成長したスケーターへの変化だ。フリーで4種類計5度の4回転ジャンプを組み込んだ高難度の構成を演じる一方、表現への思いがずっと心に引っかかっていた、と打ち明けている。 「僕が求めているのは、自分の演技を見返した時にいいなと思えること。この2年間、ジャンプは本当に上手くなりましたけど、スケーターとしてどうかと言えば、あまりいいとは思えない。『表現』をずっとジャンプの“つなぎ”として二の次にしてきた。表現にもいい加減、手を加えたい」(宇野) 子どもの頃から憧れてきた髙橋大輔(37)と、指導を仰ぐステファン・ランビエール(38)の元世界王者2人を引き合いに出して、「見ているだけで、こっちも踊り出したくなるような滑り」を追い求めることを決意した。 オフには人気漫画を題材としたアイスショー「ワンピース・オン・アイス」で主人公・ルフィ役に挑戦。例年より自身のシーズン開幕を遅らせてでも、〝シン・宇野昌磨〟に繋がるきっかけをつかもうとしていた。 「昨季までは体に染み込ませるようにジャンプを反復練習して、より楽にジャンプができるまで滑り込むっていう練習をしていた。今年はジャンプに影響が出るぐらいの気持ちで“つなぎ”の部分を練習してきた」 米国のSF映画『Everything Everywhere All at Once』の楽曲を使ったSPでは、その一端が見えた。ピアノの緩やかな旋律に乗せ、上半身は雄大に、そして足元は複雑なステップを刻む。昨季は取りこぼすことも多かった3つのスピンは全て最高難度のレベル4をマークした。 それでいて得点源のジャンプにも隙はなかった。冒頭の4回転フリップは柔らかな膝を生かした流れるような着氷で決め、出来栄えで3・46点もの加点を引き出した。4回転、3回転の2連続トーループ、トリプルアクセル(3回転半ジャンプ)も危なげなく決め、いきなり今季世界最高得点となる105・25点をたたき出した。 演技後、表情こそ涼しげだったが「ジャンプよりも、プログラムを通して自分が感情を入れて表現をしたいという気持ちで滑ることができた。全然スピード感はなかったけど、ジャンプだけという気持ちにならず、SPでちゃんと演技したいという気持ちが表れていた。そこは自分を褒めたい」と珍しく、自身の演技に高い評価を与えた。 最終滑走だった翌日のフリー『Timelapse』は、最初の4回転ループで転倒し、続く4回転フリップが2回転に。一つ前に滑ったシャオ・イム・ファが207・17点を出す中で、序盤に取り返しのつかないミスを重ねた。だが、宇野の真骨頂はそこからだった。トリプルアクセルを華麗に成功させて流れを立て直すと、昨季まで鬼門だった演技後半の4回転、3回転の2連続トーループも鮮やかに決め、最高難度のスピンで締めくくると、笑顔でうなずいた。 「すごく良い演技だったんじゃないかと、僕は思っている。点数や結果は、皆さんが思い描いていたものとは違ったものになったと思いますけれども、それは僕の力不足なので、今後も頑張りますという気持ち。演技内容としては、本当に素晴らしいものだった。ここ数年間、これだけジャンプ以外のところに気持ちを入れて演技することがなかなかなかった。まだまだ姿勢が高かったり、もっとスピードを出したいという部分も見つかった。納得している」 新たな挑戦の第一歩としては収穫は十分といったところだろう。 ただ、結果に固執しすぎない姿は、昨季から時折口にする競技会へのモチベーションの低下にも要因があると見て取れる。 常に大きな壁として立ちはだかってきた羽生結弦(28)がプロに転向し、2022年北京冬季五輪を制したネーサン・チェン(24・米国)も休養中。シャオ・イム・ファやクワッドアクセルを跳ぶイリア・マリニン(18)が台頭してきてはいるが、まだ負けん気が湧き上がって来てはいない。 「自分が優勝するより、自分の身近な人とか、一緒に練習している人とか、今回のアダム君とかが優勝して、喜んでいる姿とかを見るとすごく嬉しいなって思える。それぐらい、自分自身の結果に対する気持ちとか、競技に対する闘争心とかっていうのが、今、薄いんだろうなっていうのは思いました。競技会に対して、結構やりがいを持って、時には楽しいって思いながら練習する日もあるが、何をモチベーションにやっていくのかっていうのは……結構、『どうなるんだろう?』という気持ちはありました。試合に対する気持ちの持ち方で比べたら、絶対にみんなの方が『ここで絶対やりきるんだ』っていう強い思いがあると思う。僕はやっぱりネーサンさんとか、ゆづ君がいたからこそ、モチベーションになっていた。僕がそういう存在に少しでもなれているなら、ちゃんとその責任を全うしたいなとも思います」 どこか達観したようなコメントには寂しさも感じる。シーズンは始まったばかり。宇野の心に灯がともる瞬間を待ちたい。 取材・文:秦野大知
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