「河野の一族って、かなりエグイくらいもめてますね」今村翔吾と河野六郎通有にある共通点は、家族との軋轢。『海を破る者』インタビュー
〈今村翔吾はウクライナ戦争を予知していた?「絵空事じゃないか」と葛藤しながら書き上げたものとは〉 から続く 【写真】この記事の写真を見る(5枚) 「なぜ人は争わねばならないのか」――。 直木賞作家、今村翔吾待望の新作『 海を破る者 』が発売された。 鎌倉時代。元寇という国難に立ち向かった御家人、河野六郎通有(通称:六郎)は、その問いを読者に投げかける。 今回のインタビューでは、創作秘話はもちろん、「出版業界に変革を起こしたい」という今村翔吾さんの熱い想いを聞いた。(全3回の2回目/ 3回目 に続く) ◆◆◆
家族のことで苦しんだ16歳の今村翔吾
――実の父親と不仲だった六郎。今村さんご自身も、家族との摩擦があったそうですが……。 作家って因果なもんで、そういう事ですらネタにしてしまうというか、経験にしてしまう。 確かに、六郎の家みたいな感じでした。鎌倉時代じゃないから武器取って何かしたりってわけじゃないけど(笑)。僕は若い時、自分の家族のことで苦しんだから、六郎の気持ちは分かるかな。16~17歳の僕は、六郎を見たら「そうそうそう」と言ってると思います(笑)
――六郎は令那や繁のおかげもあり、父親との関係を昇華できましたが、今村さんご自身は「乗り越えたな」と感じた瞬間はありますか? えーとね、まだやね。でも僕にとって、繁や令那みたいな存在はいますよ。 例えば編集者さんとか、出版関係で繋がっていった人たちもそうだし、自分の事務所の若い子らとか、教え子も含めて、支えられてますね。 そういう、これまで出会った人たち、事務所の人たちが、僕にとっての繁や令那なのかもしれないです。だから、(家族と和解するならば)この先かもしれないですね。 綺麗事って言われるかもしれないけど、僕は人と人の関係って、希望を捨てたらダメだと思ってます。希望はもって、期待はしない。期待をすると「裏切られた」とかなるんだけど、希望自体を捨てんのとは違うなと。 ――六郎は希望を捨てない強さがありました。本作を読んで私が一番感銘を受けたのは、「暴力に暴力で返さなかったこと」。 先程、この結末は「綺麗事かもしれない」と仰ってましたが、私は世界中で戦争が起きているこういう時代だからこそ、本作のような小説が必要だと感じました。 だから僕も戦争とか、そういうテーマは結構扱って来てます。 さっきも希望って言ったけど、人間の行きつく所が「そこ」であってほしいし、「そこ」を掲げ続けること自体は、やり続けなくてはいけない。放棄したらダメだと思ってて。 現実はそんなうまいこと行かないかもしれないし、戦争という状況になったら、僕だって大切な人を守るために武器を取るかもしれない。 だけど、世の中の人全員が希望を捨ててしまった時に、もう一段階、人というのは凄惨な道を進むような気がするんです。だから、希望を「持つこと」が大切。世の中が希望を持つことによって、全世界に「葛藤」が生まれる。葛藤は、戦争の抑止になると思ってます。