久保田利伸、憧れのNYで吐いた“捨てゼリフ”を後悔 心の扉開くきっかけに
冷たい人間になってしまった自分への嫌悪
そして久保田はニューヨークへ滞在することを決心する。 「1993年に思いが強かったニューヨークに初めて数カ月滞在したのですが、そのときは夢もあって、ニューヨークという怖くて強い場所に『負けないぞ!』って思いが強くガチガチだったんです。でもそんな肩に力が入った状態でいることによって、完全に自分を見失って、すごく冷たい人間になってしまったんですよね」と苦笑いを浮かべる。 続けて「そのとき住んでいた場所の近くにグローサリーストアがあったのですが、真冬の夜中、ものすごく寒い日に買い物に行ったんです。用事をすませて帰ろうとしたら、店員さんが『寒いだろう?そこにあるスープ持って行けよ』って声をかけてくれたんですね。本当ならものすごくありがたいことなのに、突っ張っていた僕は格好つけて『別にいらねーし』って捨てゼリフを言って帰ってきてしまったんです」と具体的なエピソードを挙げる。 「翌日、冷静になってすごく自己嫌悪に陥ってしまったんです。デカイ夢持ってニューヨークにやってきたのに、なんて小さい人間になってしまったのだろう……ってね」。そこから久保田は考え方を変えたという。 「もっと気持ちをオープンにして、心の目を開いて歩こうって思ったんです。そうじゃないと、ニューヨークという街にいる意味がないじゃないですか」
現在のものづくりの原動力は“ありがたいという気持ち”
心持ちを変えることで大きく視野も広がったという。「ニューヨークの街と人が見えるようになると、自分のことも分かるようになっていったんです。厳しい街であることは間違いないのですが、同時にいつも何かやる気にさせてくれる街だなって思いました。心を開くとエネルギーも入ってくる。そうすると『やれる!』とポジティブになれるんですよね」。 こうして久保田は長期に渡りニューヨークに滞在し、いろいろなアーティストとの共演など、数々の経験を積んでいくことになる。そこで見たもの、聞いたものはすべて自身の力になっているという。「以前は新しいものを見たり聞いたりすることが、ものづくりの原動力になっていたのですが、いまは多くの経験を積んできたので、こうして継続できていることへの“ありがたいという気持ち”だったり“感謝の気持ち”が表現することの原動力になっていますね」と自身の変化を語ってくれた。 (取材・文・写真:磯部正和) ------------------------ ■久保田利伸(くぼた・としのぶ) 1986年デビュー。独自の音楽スタイルを世に送り出し、卓越した歌唱力、リズム感、作品力で大きな支持を得る。国内では15作のアルバムを、米国を中心とする海外で3作を発表。2004年、Soul Musicの殿堂と言われるアメリカのTV番組「SOUL TRAIN」に初の日本人ヴォーカリストとして出演。JAPANESE R&B界のパイオニアとして讃えられるも、現状に甘んじることなく常に新しい風を作品に送り込む姿勢は、後進ミュージシャンにも多大な影響を与え続けている。代表作「LA・LA・LA LOVE SONG」「Missing」「LOVE RAIN~恋の雨~」「Bring me up!」など多数。(2017年5月現在)