7月まで一時的に加速も緩やかな低下基調を辿る消費者物価上昇率(4月CPI統計):円安進行を受けた日銀早期追加利上げ観測は行き過ぎか
2024年度のコアCPIは+2.4%と3年連続で2%を超えるが、2025年度には+1.6%、2026年度には+0.9%と次第に低下していき、日本銀行の2%の物価目標は持続的には達成されないと考える(図表1)。
円安進行は日本銀行の追加利上げを後押しする
3月に日本銀行がマイナス金利政策を解除した後、為替市場ではドル高円安基調が続いている。そうした中、債券市場は早期の追加利上げや保有国債を削減する量的引き締め(QT)実施への観測を強めており、5月22日には、10年国債利回りは11年ぶりに1%台に乗せた。 日本銀行は為替を目標としていないが、円安進行が追加利上げなど、日本銀行の金融政策の正常化ペースを早める可能性は考えられるところだ。しかしながら、日本銀行は円安だけに反応して政策を決めることはないだろう。 日本銀行は、春闘で明らかになった賃金上昇率の上振れが、中小・零細企業を含めてどの程度のトレンドになるかを確認する必要がある。それが確認できるのは、5・6月分の毎月勤労統計であり、発表されるのは7・8月の上旬である。さらに、賃金上昇率の上振れがサービス価格にどの程度転嫁されていくのかを、7月、8月分の消費者物価統計で見極める必要がある。それらが発表されるのは8・9月の下旬である。 そのうえで、基調的な物価上昇率が高まり、2%の物価目標達成の確度が一段高まれば、それに応じて正常化を一歩進め、追加利上げを実施することになるだろう。 実際には、既に見たようにサービス価格の上昇率は下振れてきており、春闘以降の賃金上昇がサービス価格に明確に転嫁されない可能性も考えておく必要がある。追加利上げは既定路線であり、転嫁が明確に確認されない場合でも、日本銀行は追加利上げをいずれ実施するだろう。それでも、賃金、物価統計をしっかりと確認した上での政策変更であることを対外的に説明することが求められる。
市場の追加利上げ観測、量的引き締め観測はやや先走り過ぎか
6月あるいは7月の金融政策決定会合では、これらの点を統計でまだ十分に確認できないタイミングであることから、追加利上げの時期は最短で9月の決定会合となるのではないか。基調的な物価上昇率の低下傾向を示す4月のCPI統計も、日本銀行の追加利上げ、あるいは量的引き締めの実施を慎重にさせる材料だろう。 10年国債利回りは、10年スワップレートにかなり近づいていく形で1%に乗せた。市場は、追加利上げ観測を強めていることに加えて、日本銀行が長期国債の保有額を本格的に減少させるQTを行い、日本銀行の国債買い入れによる国債需給ひっ迫が緩和されていくことを織り込んでいるのではないか。 金融市場では、6月の決定会合で日本銀行が量的引き締めを始めるとの見方も浮上している。しかしこれは、やや先走った見方ではないか。日本銀行は、短期金利を引き上げている最中に本格的にQTを始めることには慎重だと思われる。双方を同時に行えば、長期国債利回りが予想できない形で大きく変動してしまうリスクがあるからだ。 日本銀行は、最短では今年9月に追加利上げに踏み切るが、本格的な保有国債の残高削減、つまり「量的引き締め(QT)」に着手するのは、来年、追加利上げが一巡した後になる、と現時点では見ておきたい(コラム「日銀追加利上げと量的引き締めはどちらが先か?」、2024年5月21日)。 円安は日本銀行の金融政策正常化を後押しする面がある一方、円安による物価上昇懸念が個人消費を悪化させている面があり、これが金融政策正常化の妨げとなり得る点にも留意したい。 こうした点も考慮すれば、円安進行とともに日本銀行の金融政策正常化観測を加速的に強めている足元の金融市場は、やや先走り過ぎていると言えるのではないか。 木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト) --- この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。
木内 登英