医師が対面したのは「自分そっくりの溺死体」だった! 抜群のツカミで始まる「現役医師作家」の本格ミステリ(レビュー)
この世に自分とそっくりの人間が三人はいるというけれども、その者がいきなり目の前に現れたら驚くだろう。ましてそれが死体だったら、という抜群のツカミで始まるのが、鮎川哲也賞を受賞した「医療×本格ミステリ」の本書である。 二〇二三年四月、兵庫県鳴宮市にある兵庫市民病院救急科に心肺停止状態の男性が搬送される。担当医の武田航はただの溺死体だと思ったが、その患者「キュウキュウ十二」の顔を見て驚愕する。自分と瓜二つだったのだ! 自分は一人っ子だし、知り合いにも似た者はいない。武田は看護師の紹介で高い推理力を持つ医師・城崎響介に相談することに。 城崎は武田の中学生時代の友人だった。男でも思わず振り返るような美貌の持ち主だったが、ガールフレンドの死にも涙しないような非情な男だった。本人いわく「僕は変温動物じゃなくて、恒温動物なんだ。低めの体温でずっと一定してる」。
だが不思議な事象をそのまま放置するのは居心地が悪いと身元不明の死体の謎解きに協力する。まずは母子手帳を手がかりに探り始め、武田の両親が不妊治療を受けていたらしい病院を見つけだす。城崎と二人で大阪市にあるその病院、生島リプロクリニックに赴き、「キュウキュウ十二」の名前も知るが、理事長・生島京子との面会は叶わない。一週間後、再びクリニックを訪れた武田を待っていたのは密室状態の理事長室で首を吊った京子の死体だった。 瓜二つというと、ミステリー読みなら即クローンという言葉が浮かんでこようが、クローン技術は武田が生れた頃はまだ出来ていない。では何故、というのが読みどころだが、それをもたらす医術もさることながら施術の成否に関わる工夫がミソだ。 城崎と武田の探偵コンビは「作家アリス」シリーズの火村英生と有栖川有栖を髣髴させるし、終盤に明かされる倫理的なテーマは重いが、シリーズの未来は明るく開けている。 [レビュアー]香山二三郎(コラムニスト) かやま・ふみろう 協力:新潮社 新潮社 週刊新潮 Book Bang編集部 新潮社
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