<ロンドン世陸>なぜ日本期待の3人は9秒台を出せず準決勝敗退したのか
今回、日本人の3人がロンドンで9秒台を出せたかというと、気象コンディションを考えると難しかっただろう。準決勝の9秒台は唯一、追い風になった3組を走ったクリスチャン・コールマン(米国)とボルトの2名のみ。決勝も、向かい風0.8mのなかでのレースとなり、9秒台は4人にとどまったからだ。 それでも日本人3人揃っての準決勝進出は初めてのこと。日本のレベルは確実に上がっており、9秒台を出すのは時間の問題だ。 特にサニブラウンは向かい風0.6mの予選を10秒05で駆け抜けており、これが追い風0.5m前後のレースだったら9秒台に入っている計算になる。他の10秒0台のベストを持つ多田、ケンブリッジ、桐生祥秀(東洋大)、山縣亮太(セイコー)も好条件に恵まれれば、9秒台に突入してもおかしくない。 しかし、タイムはタイムであって、世界と勝負することとは少し違う。今回、サニブラウンも、「いくら持ちタイムが良くても、一緒に走らないとわからない部分がある。一緒に走ってみて、誰が強いのか。それが世界大会では問われてくると思います」と感じている。 世界大会で結果を残すには、本番で最大限のパフォーマンスを発揮するという能力が重要になる。今回メダルを獲得した3人のうち、優勝したジャスティン・ガトリン(米国)と3位のボルトは、条件の良くなかった決勝でもシーズンベストを刻んでいる。 勝負すべきレースにピンポイントで合わせることができるのか。その能力が、まだ日本人スプリンターには欠けているようだ。ファイナル進出を目指すなら準決勝で最高の走りをしなければいけないし、メダルを狙うなら決勝でのレースが大切になってくる。 9秒台へのカウントダウンに揺れる日本の陸上界だが、好条件のレースで出した「9秒台」よりも、世界大会の「ファイナル進出」の方が価値は高い。9秒台はゴールではなく、世界と戦うための通過点。今大会はサニブラウンに決勝進出の夢を見ただけに、今後の期待は高まるばかりだ。 (文責・酒井政人/スポーツライター)