宇宙飛行士が旅客機のコックピットになぜ?「操縦訓練にあらず」JAXAとANAが見据える次の一手
ボーイング777用の施設でどんな訓練を?
今回の報道公開の際には、CRM訓練のうち、ANAの保有するボーイング777型機用のシミュレーターを用いて、東京・羽田空港と大阪・伊丹空港の往復飛行を模擬した内容を行っていました。候補者は2名いるので、メインパイロットとサブパイロットの役割を往路、復路で交代しています。実際に訓練している時のシミュレーター内の様子は見ることができませんでしたが、外から見ていると、離着陸時間帯以外でシミュレーター全体が大きく動くタイミングが何度かありました。 訓練後の説明によれば、2人に課せられたシチュエーションというのは、飛行中に悪天候に遭遇したうえ、2基あるエンジンのうち片方が停止するというもの。シミュレーターが大きく動いたのはこれが原因だろうと想像できました。このようなトラブルが起きた中で、機体の状況を手分けして確認したり、トラブル発生を管制塔役や自社地上スタッフ役の社員に連絡することで、天候情報や着陸可能な空港情報などを可能な限り集めてリカバーする判断を下したり、というものだったそうです。 航空無線の用語など、宇宙飛行士としての訓練の本質には関わらない部分も含め、ANAクルーに課しているそのままの内容を実施したとか。そのため、事前に座学で基本的な用語などのトレーニングを受けたとのこと。社内では宇宙飛行士向けに内容をアレンジした方が良いという声も根強く、かなり議論があったといいます。 しかし「蓋を開けてみれば成功だった」といえる出来だったようで、今回の訓練実施を担当したANAの鈴木直也(すずき・なおや)フライトオペレーションセンター訓練業務部部長も「2人の吸収速度がものすごく、弊社の通常のパイロット訓練時よりも進みが早い」と述べていたほどでした。
JAXAとANAの両方にメリット
今回の事例は、JAXA、ANA双方にとってプラスだったようです。 JAXAとしては、民間でも充分な宇宙飛行士に対する訓練が施せるということがわかりました。ANAとしては、これまで内容を調整して医療従事者などに提供してきたCRM訓練をそのまま適用できる事例が新たに見つかったことに加え、まさに宇宙事業を立ち上げている最中に、宇宙飛行士訓練というダイレクトに宇宙開発へと関与する部分の実績を上げられる目途が立ったというのが主要な成果でしょう。 宇宙飛行士候補者の基礎訓練は終盤にさしかかっています。現在のスケジュールでは、今年(2024年)10月に訓練を終え、審査委員会で宇宙飛行士として認定するかの審査を行うことになっています。 そのとき米田あゆ、諏訪理の両候補者が宇宙飛行士になることができるか。ただ、この審査が終わり、晴れて正式な宇宙飛行士になっても、訓練は続きます。高めた能力を維持向上する訓練、ミッションが決まればそれに向けた訓練など、実際の宇宙飛行よりも長い期間を訓練に費やすことになります。
東京とびもの学会