三島食品の峠本香織さん

　♫かわいいだけじゃないんだぜ―。ふりかけのゆかりシリーズで知られる三島食品（広島市中区）の工場で流れる軽快な歌は、のりの加工を担当する峠本香織さん（32）が作った。社員が特技を仕事に生かす同社の「B面活動」の一つだ。20代前半、バンドのギタリストとしてメジャーデビューを目指していた峠本さん。今、仕事も音楽も、自分のペースで取り組める環境が「すごく心地よい」という。 【動画】三島食品で流れる「つみきりん」の歌

■「シソ、おいしそー」　始まりはだじゃれ

　―思わず口ずさみたくなる歌ですね。 　ロボットの名前は「つみきりん」。段ボールを積み上げるロボットです。絵が得意な社員がキリンの姿にペイントしました。私が曲を付けたのは3年前。工場見学に来る子どもたちに楽しんでもらおうと作りました。 　作詞作曲、ミックス（音を組み合わせて調整する作業）を通してかわいらしい印象の曲にしたつもりです。制作に当たり、どんな機械なのか先輩に取材したら、マシンなのに日によって調子の良しあしがあるというんです。その少し抜けている感じを表現したくて、鉄腕アトムのオープニング曲にも使われている「ホールトーンスケール」という音階でメロディーを作りました。 　―どんな経緯で、峠本さんが手がけることになったんですか。 　もともとは遊びだったんです。同僚が仕事中につぶやいた「シソ、おいしそー」というだじゃれを基に、架空のCMソングを作って楽しんでいました。それを見ていた上司が「音楽が作れるなら『B面活動』として何かしてみたら」と提案してくれました。

■「栄養戦隊ニュートリジャー」の音楽も

仕事中の峠本さん

　―職場のコミュニケーションがきっかけなのですね。 　つみきりんに関わることになったのも、休憩場所になっている自動販売機前での、いわば「カフェトーク」がきっかけ。「峠本さん、曲付けてみたら?」と言ってくれた人がいて。どんなことでも一度はやってみることにしているので、早速作って、周りの人たちに聞いてもらっているうちに仕事に発展しました。 　工場勤務と言うと、他人とコミュニケーションを取らずに黙々と仕事をするイメージを持たれがち。確かに業務中はのりに集中しています。でも休憩中はたくさん話をしますよ。私の場合、それで疲れが取れるし、B面活動にもつながりましたしね。 　だから、毎日「おはよう」と笑顔であいさつすることも大切にしています。どんな会話も、あいさつから始まると思うから。 　―つみきりんの他にはどんなことを? 　開発本部の社員の企画で、業務用の栄養機能性ふりかけのプロモーションビデオ、「栄養戦隊ニュートリジャー」の音楽も担当しました。 　私にとってB面活動は余興を作っているような感覚です。みんなを楽しませたい、笑わせたい。「これって面白いよね」と盛り上がりながら、わいわいと創作するのはとても楽しい。B面が充実すると、A面の方も「おいしいふりかけを作ろう!」という気持ちになるんです。 　―入社までは音楽一色の生活だったそうですね。今の日々は単調には感じませんか。 　それが今の方が音楽に向き合えている感じがします。勤務時間がきっちり決まっているので、働く時は働き、空いた時間に好きなことをするリズムがいい。休日には知人のバンドのサポートでライブに出演することもあるんですよ。

■三島食品のB面活動とは

　本来の日常業務を「A面」に見立て、社員個人が特技や個性を自発的に仕事に生かすことを「B面活動」と呼ぶ。会社に貢献できることなら内容は自由で、勤務時間中に取り組んでも構わない。 　名刺代わりになる自己紹介漫画やイラストの制作▽赤シソ由来の原料を使った菓子やマスクケースなどノベルティーグッズの企画▽工場の機械の改良―など、多くの社員が取り組んでいる。 　約20年前、工場の業務改善を、部署の枠を超えて進めたのをきっかけに始まった。