「傷を負うと人は優しくなれる」浅田真央さんの衣装も担当したデザイナー安野ともこさんの生き方に学ぶ
装いやたたずまい、醸し出すムード。スタイルにはそのひとの生きてきた道、生き様が自ずとあらわれるもの。美しい空気をまとう先輩たちをたずね、その素敵が育まれた軌跡や物語を聞く「生き方がスタイルになる。素敵を更新しつづけるひと」連載。今回は、スタイリストとして幅広く活躍しながら、ジュエリーブランド「CASUCA」のデザイナーとしても知られる安野ともこさんに話を伺った 【写真】安野ともこさんがデザインしたジュエリー
経験した“傷”の数だけ優しく輝く
インタビューの場に現れた安野ともこさんは、深いピーコックグリーンのワンピースに色とりどりのパンジーを描いたパンツ姿。髪の色はベージュに淡いピンクを重ね、スパイシーでほの甘いメレンゲ菓子のよう。初対面にもかかわらず思わず“可愛い!”と口を衝いて出てしまったほどだ。 ひと月後の撮影日には、ビオラ色の「Marni」のカーディガンとピスタチオグリーンの「Ma Robe(マローブ)」のスカートというヴィヴィッドな配色が、晩秋の陽光のなか一層鮮やかな彩りを放っていた。 「色のあるものは、気持ちを引き上げてくれますから」と、チャーミングに微笑む。日々の様子を綴る自身のインスタグラムでも、とびきりの笑顔のコレクション。身を削るような忙しさの中でも、出会う人を幸せな気持ちで包み込む柔らかなオーラはどこからくるのかと尋ねると、安野さんは「傷を負うと、人は優しくなれるから」と即答。 そんな“傷”の一部も含め、まずは現在の仕事に至るまでを語ってくださった。
お洒落に興味を抱いたルーツは、小物作りを得意とした祖母が端裂でコサージュを作ってくれていたことにあるという。 「新しい洋服やコートを買うと、そこに必ずコサージュを縫い付けてくれて。次第に自分でもポーチやお財布を作るように。すると祖母から“わずかな端裂でも、必ず役立つから絶対に捨てないように”と言われ、ちっちゃな余り裂をコサージュの花の芯に使うなど工夫する楽しさ教えられました」。 バービー人形の洋服作りにも情熱を注いだ少女は、やがてパターンを学ぶためにバンタンデザイン研究所へ入学。百貨店に就職し、こぐれひでこさんの洋服に触れるうちにその独特のフレンチスタイルに陶酔、思い切ってアトリエの門を叩いたという。求人に応募したのではなく、「会っていただきたい」と電話で直談判。扉は開かれ、そこに集う様々なクリエイターとの出会いが繰り広げられた。 こぐれさんが発表するコレクションのモデルを務めたカタログをメディア関係者が見染め、雑誌『オリーブ』や『アンアン』で読者モデルとして出演。さらに、独特の声に着目されて“ちょっと歌いに来てみない?”という誘いを受けると、CMソングやレコードを出す流れに。 初めてのことに怖気付くことなく、周囲の大人たちが担ぐ“神輿”に素直にのることで、双方ともに心地よい刺激を楽しんでいたという。そんな大人たちから安野さんが特に刺激を受けたのは、“チープシック”という感性だ。壊れた時計や蚤の市で求めたアンティークのパーツを組み合わせてアクセサリーを作るなど……決して高価ではないものや廃棄してしまうものの存在を、アイディア次第で素敵に魅せる価値観は、その後の人生の礎となった。