絶滅危惧種「席でタバコが吸える店」を巡る旅【番外編】高校時代の思い出甦る国立をぶらり
母校の校庭で一休み
長々とたいへんローカルな話をしてごめんなさい。そろそろ散歩をはじめましょう。 さくら通りの交差点を超えると、片側2車線の大学通りに入り、ここから国立駅まではまさしく一本道となる。 懐かしいバス停を通り過ぎ、横断歩道をわたると、ほどなくして右側に地味な校門が見えてくる。私の母校だ。 図々しくも構内へ入っていくと、静まり返っていて、校庭には人影もない。母校を訪ねるのは卒業以来だろうか。 校庭はけっこう広い。いや、ここで野球部、ラグビー部、サッカー部、陸上部、ハンドボール部が練習していたと考えると、やはり狭い。 それでも、高校生のオレはこんなクソ暑い日にもこの校庭を駆けずり回ってサッカーをしていたのだなと思うと、昨今、駅の階段を登ると息が切れる身としては、なんとも不思議な気持ちになってくる。 サッカーゴールの裏側に、何分くらい座っていただろうか。日陰にいたからか、気がつくと汗も引いていた。この学校を出たのは、今から42年前だが、あれから私はなにほどのことをしてきたのだろう。まさに少年老いやすく、なんとやら、である。 母校の門を出て、歩道橋を渡り、さらに国立駅方面へ向かうと、左手に桐朋学園がある。さらに北へ進むと、大学通りの両側に一橋大学の広大なキャンパスが見えてくる。 この大学のグラウンド脇の芝生は、高校生のときの私の、サボり場だった。ごろりと横になって、文庫本を開くか、空に浮かぶ雲を眺めるか。ちょっと大人ぶって1本のタバコをくゆらせたかどうかは、ご想像にお任せしよう。
ようやく辿り着いた止まり木で
一橋大学から国立駅までは、10分とかからない。途中に食品スーパーの紀ノ国屋があるのだが、その入口手前で左に折れると、「サンモーク」という店がある。タバコと喫煙具の専門店だ。 葉巻もパイプも、海外のタバコも、なんでもある。ジッポライターなど、目移りして、どれが欲しいのかわからなくなるくらいに、ずらりと並んでいる。東京の郊外の一角に、こんな洒落たタバコ屋があるのが、国立のすごいところ。改めてそんなことを思いつつ、コイーバのシガリロと、缶入りピースを購入した。 高校生の頃、大学通りを歩く初老の男性がいつもパイプをくゆらせていた。とてもいい匂いがして、さすがパイプ、紙巻きとはランクの違う甘い匂いだぜ、なんて思ったものだったが、なに、缶ピースの香りだって、すごいもんだよとしばらく経ってから知った。マッチで火をつけてごらんよ。あの、なんとも言えないいい匂いは、今だってすぐそこにあるのだ。 なんてことを考えながら、ようやく駅まで辿り着くと、猛烈にタバコを吸いたくなってきた。そこで、本日、目指してきたうちの一軒、「珈琲屋大澤」へ向かうことにした。 かつては大学の近くの喫茶店といえばタバコの香りがセットみたいなものだったが、今や国立でコーヒーを飲みながら一服できる店はほとんどなくなってしまった。そんな中、こちらは、愛煙家にとっては貴重な止まり木である。 ああ、ようやく、涼むことができた。頼んだアイスコーヒーは香り高く、たいへんうまい。 古風な扇風機の風にあたり、ゆるりと汗が引くとき、ポケットから取り出したセブンスターに火をつければ、おお、ついにこの一服にたどり着いたかと感慨深く、ゆっくりと煙を吸い込み、しばらく吐き出さずに溜めて(喫煙もバッティングも、溜めが肝心だ)、煙りを細く緩やかに吐き出す。ああ、うまい! ふと時計を見れば、すでに夕方。最高気温36℃という季節外れの酷暑の昼下がりに始めた国立散歩も、ようやく一本のタバコにたどり着いた次第です。 ⇒絶滅危惧種「席でタバコの吸える店」【第12回】へ続く 【ギャラリー】 【ギャラリー2】
大竹 聡(ライター)