光量子コンピュータの実用化へ一歩前進、光量子状態の生成速度を1000倍に高速化
東京大学大学院工学研究科は2024年11月1日、マサチューセッツ大学、日本電信電話(NTT)、NICT(情報通信研究機構)、理化学研究所とともに、「シュレディンガーの猫状態」と呼ばれる強い量子性を有する光量子状態の生成速度について、従来のkHzオーダーから約1000倍となるMHzオーダーに高速化することに成功したと発表した。 【古澤氏の研究チームによる光量子コンピュータの主な研究成果】 今回の研究成果を主導したのは、光方式の量子ビットを用いる光量子コンピュータの研究で知られる東京大学大学院工学研究科 教授の古澤明氏と、同科 助教のアサバナントワリット氏、大学院生の川崎(正しい漢字はたつさき)彬斗氏による研究チームである。古澤氏とワリット氏は2024年1月に、光量子コンピュータの論理量子ビットであるGKP(Gottesman-Kitaev-Preskill)量子ビットの生成に成功したことを発表しており、今回の研究成果と組み合わせることで、光量子コンピュータの開発を飛躍的に進めることが可能になるという。 今回の研究成果では、光量子状態の生成と測定を行うための量子光源とホモダイン測定器を刷新した。量子光源は、スクイーズド光源を用いる帯域が数MHzの光パラメトリック発信器から、NTTが主体となって開発した帯域が最大6THzに達する光パラメトリック増幅器(OPA)に変更。ホモダイン測定器は、帯域が100MHzのものから、ホモダイン測定器の前にOPAを量子的な位相敏感増幅器として用いることで測定系の帯域を70GHzに広げた。これにより、光量子状態の生成速度について、従来はkHzオーダーにとどまっていたところから約1000倍となるMHzオーダーに高速化することができた。 ホモダイン測定器の測定系の帯域は70GHzになっているものの、東京大学とNICTが共同開発した超伝導光子検出器の性能により量子状態の帯域は1GHzに制限されている。この70GHzの帯域全体を使うことができれば、光量子状態の生成速度を70倍の高速化が見込まれる。従来の非古典的な量子状態生成の実験では、この超伝導光子検出器が最も高速かつ広帯域な素子として動作していたが、今回のOPAを用いた高速な測定系を活用すれば光子検出器のさらなる改良が可能になり、現在の1GHzという制限を取り払うことにつなげられるという。 光量子コンピュータの実用化に向けた次の研究課題としては、量子情報を処理する量子プロセッサにおける量子状態生成の高速化になる。東京大学が2019年に発表した研究成果では、2次元クラスター状態で多数の波束から成る量子もつれの生成の帯域で25MHzを実現しているが、さらなる高速化が求められるという。 なお、今回の研究成果は2024年11月1日発行の学術論文誌「Nature Communications」に掲載された。