『無能の鷹』が伝えた“ありのままの自分でいること”の大切さ 鷹野たちとの再会を願って
鶸田(塩野瑛久)が転職先で鷹野(菜々緒)と再会
こうして世界が注目する時の人となった鷹野は、シリコンバレーのビック企業にヘッドハンティングされ、日本を離れることになった。この状況に全然ついていけず、心配と寂しさから「海外転職なんて鷹野には壁が高すぎるよ、怖くないの?」と詰め寄る鶸田に、鷹野はこう答える。 「たしかに壁は高いでしょうね。でも高すぎるかは……登ってみないとわからないんじゃない?」 のちに鷹野は標高の高さだけで転職を決意したことが明らかになるが、その言葉には彼女がこれまで数々のミラクルを起こしてきた理由のすべてが詰まっている。鷹野が持っている一番の美点は、誰よりも自分が自分を信じているところ。与えられた仕事がたとえ自分の能力以上のものだったとしても、根拠のない自信をもとにとりあえずやってみる。そしたらなんだかんだで上手くいって、自ずと道が拓けてきた。もちろん、失敗することもあるけれど、さして落ち込まずに前へ進む。 そういう人間になれたら、どれだけいいかと思わざるを得ない。でも、みんながみんな鷹野のようになれるわけではなく、現実には彼女のようになろうとしてもなれないいろんなしがらみがある。それに、鷹野を完コピして生きることが決していいとも限らない。事実、いつもみんなが嫌なことも率先してやってくれる真面目な鳩山(井浦新)が鷹野化したことで周囲は困惑した。 同じように、朱雀部長(高橋克実)のプライドの高さと圧の強さ、雉谷(工藤阿須加)の誰とでも上手くやれる策士ぶり、鵜飼(さとうほなみ)が持つちょっと引くくらいの出世欲と向上心、鴫石(安藤玉恵)の変わり者たちをまとめる統率力、鵙尾弓(土居志央梨)の面倒くさがりが生むアイデア、烏森(永田崇人)の相手の心を掌握するあざとさ、鵤(宮尾俊太郎)のマイウェイぶりなど、本作に出てくるキャラクターたちは全員極端だけど、それぞれに見習うべきところがある。そういうありのままの自分を、必要としてくれている人は絶対どこかにいるはずだから。 一方で、鳩山が普通すぎる自分を変えようと鷹野のエッセンスを取り入れてみたように、それこそ生き物図鑑をみるような形で、必要な時に相手の良いところを真似してみたら少しだけ世界は変わるかもしれない。 鶸田は「私がこの会社を必要としてるから、会社に必要とされてるかは考えないようにしてる」という鷹野の言葉を思い出しながら面接を受けた結果、見事転職先を決めた。そこで再会を果たすのが、シリコンバレーの会社を秒でクビになった鷹野だ。そうやって会いたい人にまた会えるのは、生きていればこそ。仕事ができなくても、生きているだけで人間はみな偉い。1週間を振り返って落ち込むことが多い金曜日の夜だからこそ、そう断言してくれるようなこのドラマがあってよかった。願わくば、この先、自分を肯定しながら生きている中でまた鷹野たちに会えますように。
苫とり子