声優・津田健次郎さん「相手と距離を縮めるのに、社交辞令はいらない」
声優や俳優として活躍する津田健次郎さん。かつては周囲に馴染めず、違和感を抱いていたそうですが、芝居を始めたことで「周囲とつながる感覚」を持てるようになったと語ります。津田さんが人づきあいで大切にしていること、そして孤独との向き合い方とは? お話を聞きました。(取材・文:髙松夕佳) ※本稿は、月刊誌『PHP』2024年3月号より、一部編集・抜粋したものです。
自分の足で立つ
インドネシアのジャカルタで幼少期を過ごした僕は、小学2年生の終わりに帰国してからも、いつもどこか周囲としっくりこないという違和感を抱いていました。幼いころから映画が好きで、表現の道へ進むことにしたのも、自分の内側にたまっていた鬱屈したエネルギーを出せる場を欲していたからではないかと思います。 芝居を始めてから、より自己と他者を俯瞰的に見つめることが習慣になりました。若いころは「自分」と「世界」に線引きしがちですが、芝居は僕にとって、両者の間をつなぐパイプのようなものでした。役の言葉を借りることで、世界とつながれるような感覚が確かにあった。 以前、激しい暴力描写を含む小説を書く覆面作家の方が、「自分はペンネームさえあれば、どんなに不謹慎な描写でも書ける」とおっしゃっていたのを読んで、わかる気がしました。 僕にとっては、自分「対」世界ではなく、両者の間に「役」をはさみ、自分の言葉ではないセリフがあることが重要です。演じるときは役になりきるというより、自分の抱えているものとキャラクターの内面を融合させていく感覚があるのも、そのせいかもしれません。
人づきあいに必要以上の気遣いは意味がない
声優やナレーション、俳優など、つい多方面の仕事に手を出してしまうので、多忙になりがちです。でもそんなときこそ、仕事の合間に空き時間ができれば、喫茶店に入ってひとりの時間を持つようにしています。何かを書いたり読んだりもしますが、何もせずぼうっとすることも多いです。 演技をしたりインタビューに応えたりと、仕事は常に目的と成果が明確です。一方、喫茶店でコーヒーを飲みながらぼんやり過ごすときは、すぐ役に立つこととは違う、より曖昧でどうでもよさそうだけど長い目で見ると重要なことを、頭の中で巡らせます。 人づきあいについては、ある時期からマイペースがきわまり、お互いの琴線に触れないような会話は激減しました。必要以上の気遣いは意味がなく、過度な社交辞令は相手との距離を縮めることにはならないと気づいたからです。 たとえば現場で、共演者に「最近寒いですね」と声をかけたとします。そこまではいいのですが、「冬ってどう過ごされていますか」と表面的な社交辞令で話を続けたとして、相手との距離が縮まるわけではありません。お互い疲れますし、距離は逆に遠ざかってしまう。 期せずしてよい会話のフックが生まれることがあっても、それはやはり他力本願、運まかせです。それよりは、「なぜ芝居をやっているんですか」などと、その方の核心に触れそうなところにグッと踏みこんだほうが、おもしろい話ができるし、意味のある会話が生まれていく気がするのです。