日本がアメリカに負ける原因の正体は、自らが作り出す「死の谷」だった…天才科学者・山中伸弥が語る、日本が抱えるヤバすぎる「弱点」
「iPS細胞技術の最前線で何が起こっているのか」、「将棋をはじめとするゲームの棋士たちはなぜ人工知能に負けたのか」…もはや止めることのできない科学の激動は、すでに私たちの暮らしと世界を変貌させつつある。 【漫画】刑務官が明かす…死刑囚が執行時に「アイマスク」を着用する衝撃の理由 人間の「価値」が揺らぐこの時代の未来を見通すべく、“ノーベル賞科学者”山中伸弥と“史上最強棋士”羽生善治が語り合う『人間の未来AIの未来』(山中伸弥・羽生善治著)より抜粋してお届けする。 『人間の未来AIの未来』連載第32回 『「金メダルを取っても意味がない」…天才科学者・山中伸弥が語る、日本特有の“風潮”が及ぼす科学への「痛すぎる影響」』より続く
研究に立ちはだかる「死の谷」
山中 僕たちの大学が研究した技術は、最終的には大手の製薬会社などが本格的に開発してくれないと社会に還元することはできません。大学からいきなり社会に還元するのは難しいんです。 先端技術の開発で、基礎研究の成果から実用化・製品化するまでには「死の谷」と呼ばれる資金的なボトルネックがあるんですね。日本では今まで大学発の優れた研究が多かったのですが、その「死の谷」を乗り越えられず、実用化段階でアメリカに先を越されてしまったケースが少なくありません。ゲノム情報を読み取るシークエンスの技術も、もともとは日本の会社が先陣を切っていたんです。 羽生 そうだったんですか。 山中 ところが国からの援助が途切れてしまったので、日本は開発が――。 羽生 停滞してしまった。
アメリカが急速に成長できたワケ
山中 アメリカが急速に伸びたのは、ベンチャー企業のおかげです。アメリカだとベンチャーがすぐにできて優秀な人材が集まります。大学発の技術をベンチャーで伸ばし、それを大企業が買収したりしてスムーズに行くんです。日本のベンチャー企業も頑張ってはいますが、なかなか苦労しています。まず、お金が集まりにくい。人材を集めるのも苦労しているところが多いと思います。 日米で若い人を見ていると、明確な違いがあります。アメリカでは研究室のトップの学生が「自由にやりたい」とベンチャー企業に行きたがります。ところが、日本はベンチャーに行きたがる学生は本当に少ない。多くは大学に残るか、一流企業に就職しようとします。たとえ本人がベンチャーに興味があっても、親御さんが反対しますね。 羽生 「せっかく大学を出たのに、なぜわざわざリスクの高いベンチャーに行くんだ」と。 山中 その違いは本当に大きい。だから、多くの優秀な若者が研究者の道を選ばない傾向と、ベンチャー企業の道を選ばない傾向は、徐々にでも変えていかないといけません。 羽生 科学技術は日本を支える大事な要素ですからね。 山中 ちょっと心配ですね。 『じつは、「その場しのぎばかり」…永世七冠・羽生善治の“意外過ぎる告白”と「いい加減さ」がもたらす絶大な効果』 に続く
山中 伸弥(京都大学iPS細胞研究所所長)/羽生 善治
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