井上尚弥、1回プロ初のダウン奪われスイッチオン!ノーガードであごを打ってみろと何度も挑発 3倍返しの6回TKO
◆プロボクシング ▽WBA、WBC、IBF、WBO世界スーパーバンタム級(55・3キロ以下)タイトルマッチ12回戦 〇井上尚弥(6回1分22秒TKO)ルイス・ネリ●(6日、東京ドーム) WBA、WBC、IBF、WBO世界スーパーバンタム級統一王者の井上尚弥(31)=大橋=が、元世界2階級制覇王者のルイス・ネリ(29)=メキシコ=から3度のダウンを奪い、6回TKO勝利で防衛に成功した。WBC、WBOは2度目、WBA、IBFは初防衛。世界戦連勝記録を22とし、井岡一翔(35)=志成=の日本人最多勝利数に並んだ。34年ぶりにボクシング興行が行われた東京ドームで、大観衆を沸かせた「モンスター」が新たな伝説を作った。(観衆4万3000人) 井上尚弥のネリ退治に東京ドームに詰めかけた4万3000人の大観衆が一斉に立ち上がった。6回、右フックでダウンを奪い、レフェリーが試合を止めると盛り上がりは最高潮に達した。波が押し寄せるような大歓声。「東京ドームで34年ぶり。日本人初のメイン。すごいプレッシャーでしたが、みなさんの声援が僕のパワーになりました」と主役がリング上で叫ぶと、再び大歓声が巻き起こった。 波乱のスタートだった。1回、ネリの左フックが顔面を直撃。プロデビュー後、27戦目で初のダウン。会場に悲鳴が飛んだ。「ダメージはなくて、1ラウンド目ということで引きずることはなかった。ダウンしたことで逆に冷静になれた」。普段からあらゆる状況を想定したトレーニングを積んできたことで、落ち着いて対処することができたという。 息を整えた2回に同じ左フックでダウンを奪い返してドームの空気を変えた。4回にはノーガードであごを打ってみろと何度も挑発。「主導権を握る。駆け引きという意味で(やった)」。5回には再び左フックで尻餅をつかせた。自身の持つ日本記録に並ぶ世界戦8戦連続KO勝ちで締めた。リング上では「(ダウンした)1回のサプライズ。たまにはいかがでしょうか」と笑ったが、「東京ドームでやることで、すごくパワーをもらっていたけど、それだけの重圧があったのかなと」。34年前、マイク・タイソンがダグラスに敗れて以来の衝撃にも、涼しい顔で振り返った。 対戦したネリは17年、当時WBC世界バンタム級王者だった山中慎介(帝拳)との対戦後、ドーピング検査で禁止薬物の陽性反応が出たことが発覚。翌年の再戦時には体重超過を犯してタイトルをはく奪され、山中は涙を流した。会場(両国国技館)で試合を見た尚弥は「今まで感じたことのないファンの熱気、殺意、ブーイングは今でも覚えている」。今回は「悪童」に対し、抜き打ちドーピング検査や5度の体重測定を義務化。試合前日のルール会議では、ネリがメキシコ製から日本製のグラブに変更するなど、直前まで神経戦を思わせるような仕掛けを受けたが、“敵討ち”を果たし、日本中のファンの留飲を下げた。 「日本での因縁があるというのは自分の中で受け止めてはいたが、自分はこの戦いに集中していた。勝った瞬間というのは、ネリに感謝という気持ち」。終わってみれば最高のエンターテインメントとして、ボクシングの面白さをあますところなく世界に見せた。モンスターの伝説は続く。(戸田 幸治) ◆井上 尚弥(いのうえ・なおや)1993年4月10日、神奈川・座間市生まれ。31歳。相模原青陵高でアマ7冠など通算75勝(48KO・RSC)6敗。2012年10月にプロデビュー。14年4月に6戦目でWBC世界ライトフライ級、同12月にWBO世界スーパーフライ級、18年5月にWBA世界バンタム級王座を獲得し3階級制覇。19年11月のWBSS決勝でドネア(フィリピン)を下して優勝。22年12月にバンタム級では世界初の4団体王座統一。23年7月に日本男子2人目の4階級制覇を達成し12月にスーパーバンタム級でも4団体を統一。身長165センチの右ボクサーファイター。
報知新聞社